華麗なるポップ・ディーヴァのステージにようこそ! 桜舞う夜にシーナ・イーストンの眩いオーラと麗しき歌唱に酔い痴れる悦楽
華麗なるポップ・ディーヴァのステージにようこそ! 桜舞う夜にシーナ・イーストンの眩いオーラと麗しき歌唱に酔い痴れる悦楽

 麗しきポップ・アイコン――1980年代を中心に数々のヒット・ナンバーを放ってきたシーナ・イーストン。ヴォーカリストとしてだけでなく、エンターテイナーとしての輝きを放ち続けている彼女が、2015年以来となる『ビルボードライブ』のステージに還ってきた。

 溌剌とした声とキャッチーなメロディが印象的だった「Modern Girl」や「Morning Train(Nine To Five)」(共に80年)に代表されるように、デビュー当時は愛に振り回されながらも主体的に生きようとする歌で同世代の共感を獲得していったシーナ。肌ざわりは異なるけど、例えばキャリン・ホワイトが「Superwoman」(88年)で歌ったような、自立して“今”を力強く生きていく女性像を、フェミニズムが大きく開花した80年代にポップスのフィールドで確立していった存在と言っていい。

 そんなシーナの初日。すっかり夜の帳が下りた時刻に始まったセカンド・ショウは、まるで暗闇に大輪の花火が咲いた瞬間のような幕開け。スパンコールが散りばめられたグリーンのワンピースがボルドー色のヘアと鮮やかなコントラストを作り、銀色のパンプスが足下を輝かせる。(※掲載写真は1stステージより)意外にも、エモーションズのチャーミングなディスコ・チューンで始まり、続けてプリンスとの共作曲、その次にはエレクトロ・ポップ・ナンバー、そしてスタンダード・ジャズと、スタイルの異なる楽曲が息つく間もなく繰り出され、彼女が発するオーラに会場の空気が沸き立っていく。さまざまなフィールドにチャレンジして自らの舞台を広げながらも、ライブでは現役感溢れるパフォーマンスで観客を沸き立たせてきたシーナ。その表現の幅の広さがステージの序盤から全開に――。

 バンド・サウンドに乗った、その歌声の生命力と躍動感と言ったら! ポップ・ディーヴァとしてのオーラが全方位に放たれ、ヴィヴィッドに弾けた彼女がフロアのテーブルに歌いかけてくる。観客は固唾を飲みながらシーナの一挙手一投足を見詰める。まさに“真のスター”が目の前で華麗に舞っているのだ。

 改めてキャリアを振り返ってみると、チャートを賑わした冒頭の2曲や「Telefone(Long Distance Love Affair)」(83年)、プリンスとコラボした「Strut」(84年)などはもちろん、映画『007 ユア・アイズ・オンリー』の主題歌「For Your Eyes Only」(81年)での美しくエモーショナルな歌唱、さらにはブロードウェイやラスヴェガスでの舞台活動など、エンターテイナーとしてショウビズの世界にも羽ばたき、世紀を跨いで活躍の場を広げてきた才能、そして近年は、大絶賛されたミュージカルの『42nd Street』(2017~18年)など、そのマルチな活躍ぶりには、今が“第2のピーク”なのではないかと感じるほど。

 ポップ・ミュージックが進化し、全盛になった80年代の音楽を語るうえで欠かせない1人である彼女は、歌い手であると同時にサウンドの変遷を体現してきたアーティストでもある。エレクトロ・ダンス、ポップ・ロック、AOR、R&B/ファンク……と、まるでヒットチャートのエッセンスを束ね上げたようなキャリアは、改めて今こそ評価すべき。なぜなら、現役のアーティスト/パフォーマーとしての“旬”な存在感が十二分に眩しさを放っているからだ。

 そんな輝かしいキャリアを一挙に開放したような今宵のパフォーマンスに観客はスタンディング・オベイションで応え、一緒に歌い、彼女のアクションに歓声を上げる。オーディエンスを一気に惹き込んでステージと客席を繋げ、会場を1つにする。そのオーラとエネルギーの眩しさと言ったら! クラクラするような陶酔とドキドキするスリルを同時に味わわせてくれるシーナは、文字通り“稀有な存在”と言って差し支えないだろう。中盤にはレコーディングに参加した殿下のファンク・ナンバーでサイド・ヴォーカルとセクシーな掛け合いを披露。アクトレスとしての資質も滲ませつつ、たっぷりフィーチャーされた演奏を挟みながら、独特のメロディをフル・ヴォリュームで展開していく。シーナ自身、40年のキャリアの中で「最も充実した時間を過ごした」と彼との思い出を語りながら突入したハイライトは、会場の温度を一気に上げ、釘付けの観客を興奮の坩堝に巻き込んでいった。

 そして終盤。007シリーズの主題歌をドラマティックに歌い上げ、美しいフィナーレを満喫させてくれたシーナ。そのシックでゴージャスな歌唱に身を委ねながら、次はフル・オーケストラを従えた彼女の歌を聴きたいと、僕は心から渇望した。

 歳を重ねることで深みを増していくグラン・クリュ・ワインのような存在感。まったく色褪せることがないエモーション。ダンサブルなポップ・ロックでも、抒情的なラヴ・バラードでも、彼女の瑞々しく繊細、そしてダイナミックな歌唱は軽々と時空を超え、聴き手の胸にディープに染み込んでくる。その浸透度に、もはや世代の違いは関係ない。

 シーナのステージは今日(27日)も東京で2回予定されている。23日に千葉の幕張メッセで、24日には神戸のワールド記念ホールで行われたディスコ・パーティでのパフォーマンスも好評だった彼女は、今が“旬”と言い切っていい。まさに脂が乗った状態で迎える、今宵のショウ。最高のライブを満喫させてくれるのは間違いないので、ぜひとも!

◎公演情報
【シーナ・イーストン】
2019年3月26日(火)- 27日(水)
ビルボードライブ東京
1st ステージ 開場17:30 開演18:30
2nd ステージ 開場20:30 開演21:30

Photo:Masanori Naruse

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。桜とロゼ・ワインのマリアージュは週末がタイムリー(?)な東京。これからしばらくは矢継ぎ早に並ぶ春野菜を思う存分楽しみたい。ならば、ワインも繊細で爽やかな味わいのものをセレクト。今年は、例えば魚料理と好相性のヴェルディッキオや冷涼な地域で造られたシュナンブラン、あるいは北海道で育まれているケルナーあたりを試してみたい。どれもニュアンスの異なった味わいが想像できる、楽しさが膨らむ組み合わせ。定番の合わせだけでなく、年ごとに新しいマリアージュを開拓してみるのも一興。新鮮な素材が豊富に並ぶ時期には、カジュアルなワインで気軽に冒険してみて。