Khruangbin、正に“伝説の一夜”! 夢見心地のファンク・サウンドに中毒者が続出した東京公演のライブレポートが到着
Khruangbin、正に“伝説の一夜”! 夢見心地のファンク・サウンドに中毒者が続出した東京公演のライブレポートが到着

 Khruangbinの来日ツアー東京公演が、3月22日に東京・渋谷CLUB QUATTROにて開催された。

 これほどの歓迎ぶりも近年珍しいだろう。東京公演は瞬く間に完売したため、「渋谷CLUB QUATTROで2回まわし」という超イレギュラーな事態へと発展。結果的に、東京・大阪の3公演すべてソールドアウトとなったクルアンビンの初来日ツアーは、このシチュエーションからして、始まる前から“伝説の一夜”となることが約束されていた。
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 60~70年代のタイ・ファンクをルーツに持ち、昨年リリースの2ndアルバム『Con Todo El Mundo』では中東~メキシコ~アフリカと股にかけつつ、独自のメロウ・グルーヴを拡張させてきたクルアンビン。その越境的なサウンドは、ここ日本でも広くボーダーレスに中毒者を生み出していった。

 当日の午後9時過ぎ、渋谷CLUB QUATTROの2ndショウに駆けつけると、クラブ・ミュージックやインディー・ロック寄りのリスナー、ワールド・ミュージック愛好者と思しき人たちなど、文字どおり老若男女でごった返していた。〈Finders Keepers〉が編纂したイランの秘蔵音源集『Pomegranates』に収録されたMarjanの「Kavir-e Del」や、〈Now Again〉から再発されたザンビアのサイケ・ファンク・バンド、Amanazの「Khala My Friend」といった異国情緒を感じさせるBGMも、まもなく登場するトリオへの期待を膨れ上がらせる。

 定刻どおりにローラ・リー(Ba)、マーク・スピアー(G)、ドナルド“DJ”ジョンソン(Dr)がステージに現れると、疾走感に満ちたサイケデリック・ガレージ「Bin Bin」でたちまちフロアを鷲掴みに。そこから滑らかに「The Infamous Bill」へ繋ぐと、乾いたビートとオリエンタルな旋律が織りなす陶酔的なファンクネスが、会場中の空気をゆっくりと塗り替えていく。得体の知れない風貌の3人が放つ猥雑なムード、そこはかとなく漂うエロスは、ライヴハウスを場末のバーへと変貌させ、気がつけば桃源郷が広がっていた。

 それにしても唸らされるのが、多くのミュージシャンも惹きつけてきた唯一無二のアンサンブル。カマシ・ワシントンのバンドにいても違和感のなさそうな、スピリチュアルな服装も目を惹いたドナルドは、定番サンプリング・ソースさながら、シンプルかつ味のあるビートをひたすら刻み続ける。その演奏スタイルと同様に、本人の表情もブレることはなく、フロントに立つ二人を見守りながらのドラミングは、守護神のごとき貫禄すら感じられた。

 そこへ彩りを添えるのが、サイケ黄金期からタイムスリップしたような出で立ちのマークによる、変幻自在のギタープレイ。タッピング奏法も交えた早弾きから、ブルージーで哀愁漂うフレージングまで縦横無尽に弾きまくるバカテクぶりは、ライヴにおいてこそ本領を発揮するもので、ギター・ミュージック不遇の時代に現れた救世主のようにも映った。

 そして、フロアの視線を釘付けにしていたのが紅一点のローラ。桜色のコスチュームを纏い、腰をくねらせながら奏でるダビーなベースラインが、チルでディープな浮遊感を生み出していく。古くはトーキング・ヘッズのティナ・ウェイマスがそうだったように、ローラの演奏もおそらくフィーリング重視で、だからこそマジカルが宿るのだろう。吐息のようなコーラスや、ときおり浮かべる微笑も含めて、彼女が放つ妖艶なムードが会場の空気を支配していた。

 バンドのInstagramにも多数アップされたアートワークさながら、漫画的と言えるほどキャラの立った3人組に対し、オーディエンスの歓声は曲を重ねるごとに大きくなっていく。「Dern Kala」でマークとローラがお揃いのアクションで沸かせたかと思えば、「Evan Finds the Third Room」ではローラが電話機を使った小芝居を見せるなど、クルアンビン劇場は視覚的にも抜かりがない。

 その一方で、DJミックスのごとくシームレスに曲を繋いでいく展開は、セットリスト全体で摩訶不思議なグルーヴを演出しているようでもあった。その極め付けが、ライヴ終盤に用意された、ドクター・ドレ「The Next Episode」から始まるヒップホップ・メドレー。ウォーレンGの「Regulate」、ア・トライブ・コールド・クエスト「Electric Relaxation」など名曲を次々とスイッチしていき、最後はクール&ザ・ギャング「Summer Madness」の感傷的なトーンに着地……したかと思えば、坂本九「上を向いて歩こう」のフレーズまで飛び出すおまけ付き。

 その後、本編ラストを飾った「Maria Tambien」の合間には、3月16日に亡くなったディック・デイルを追悼するように、映画『パルプ・フィクション』でも知られる「Misirlou」とシャドウズ「Apache」というサーフ・ロック/ギター・インストの名曲を続けざまに披露。ここまでくれば、もはやクルアンビンの独壇場である。マークのギター独演から始まったアンコールでは、ローラの衣装お色直しに加えて、彼女たちが以前から十八番にしていたYMO「Firecracker」のカヴァーまで飛び出し、フロア中がお祭り騒ぎに。天井のミラーボールから光が注がれるなか、80分に及ぶパフォーマンスは大盛況のうちに幕を閉じた。

 夢見心地のファンク・サウンドは、野外で浴びたらさぞかし気持ちよさそうだ。幸いなことに、クルアンビンは今夏のフジロックフェスティバル '19への出演が決定済み。後年まで語り継がれる、奇跡的なステージになることは間違いないだろう。今回は見逃してしまった方も、ライヴ動画をチェックしながら楽しみにしていてほしい。

Text:小俊哉
Photo:Yosuke Torii

◎公演情報
【Khruangbin】
2019年3月21日(木)大阪・梅田 SHANGRI-LA
2019年3月22日(金)東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO(2ステージ)