311を前にして【世界音楽放浪記vol.38】
311を前にして【世界音楽放浪記vol.38】

東日本大震災から、まもなく丸8年を迎えます。お亡くなりになられた方々のご冥福を、心からお祈りすると共に、全ての被災者にお見舞い申し上げます。また、福島第一原発などでいまも作業を続けている方々をはじめ、復興に尽力されている皆さまに、深く感謝いたします。

2011年3月11日。私はロンドンにいた。その前日、視聴者を集めたファン・ミーティングを開催し、欧州各地から多くの日本ファンが集った。夜が明けると、信じられない映像が英国のテレビに映し出されていた。お悔やみや励ましのメッセージが、着信ファイルに溢れた。連帯を表す声は、瞬く間に、世界中から寄せられた。どれも、日本や日本人への慈愛に満ちたものだった。

世界に情報を伝える者として、「何が自分に出来るのか」を真っ先に考えた。その一つが、「いま、そこに生きる」被災地の人々と共に音楽を作り、世界へ届けるということだった。最初に手掛けたのが、☆Taku Takahashiさん(m-flo)に作曲とプロデュースを依頼し、仙台を拠点に活動するMONKEY MAJIKのMaynard Plantさん、ラッパーのWISEさん、そしてMay J.さんが協力してくれた、被災者支援チャリテイー・ソング「The Lifelines」だ。「The Lifelines」は、元々、Maynardさんが書いてきた歌詞の中にある言葉だった。私は、いまこそ必要なキーワードだと思い、曲名とユニット名にした。合唱は、福島市の小学生にお願いした。除染のために運動場が掘り起こされている小学校に通う男の子は、こう語った。「被災地の皆さんのために、少しでも僕が力になれたら」。この作品を世に出した後、同僚から、その成り立ちについて照会がきた。やがて「花は咲く」という曲が誕生した。

アコーディオニストのcobaさんとも、何が出来るのかという相談をした。私は、世界中からの励ましに対し、感謝を伝える曲というアイデアを伝えた。cobaさんは、その場で譜面を書き始めた。宮城県の中学生の合唱が心に刺さる「アリガトウ to the World」には、多言語での感謝が散りばめられている。世界中の文字で書かれた「ありがとう」という札を持つ中学生の姿が、印象的だった。

以前、このコラムでも触れた、ジャズ・ギタリストの渡辺香津美さんとの、岩手県釜石市の「復興の鐘」の音色を採り入れた「ReVive」は、犠牲者へのレクイエムだ。

同じ岩手県では、陸前高田市の「氷上太鼓」との交流が重ねられた。【全国太鼓フェスティバル】が、毎年開催されている陸前高田市に、長年、そのイベントと関わっている太鼓ドラマーのヒダノ修一さんに、ロケ取材をして頂いた。惨禍から希望を見出そうとしている姿に胸を打たれた私は、2011年の秋に、そのグループを東京にお招きし、ヒダノさんとの共演を収録した。エンディングでは、亡きメンバーのことを思い、何人もの奏者が涙をこぼしていた。

もう一人、どうしても忘れられない人がいる。デーブ・スペクターさんだ。震災直後、空気を読まないと批判を受けることもあったデーブさんは、実は誰より、被災地の皆さんのことを考えていた。だからこそ、少しでも苦しみを和らげようと、ツイートをしていたのだ。「被災地の皆さんに笑って頂けるなら、僕は喜んで笑いものになるよ」。あの頃のメールボックスのタイムラインを改めて読んでみると、半分以上がデーブさんとのやり取りだ。

自分たちの歴史は、自分たちで語っていかなければならない。私は、これからも語り続け、現地を訪れ、共に音楽を奏でていきたい。Text:原田悦志

原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。