全米チャートイン! 宇多田ヒカル&スクリレックス「Face My Fears」グローバル・ヒットを3つの視点から見る

Billboard JAPAN

 スクリレックスとのコラボ・シングル「Face My Fears」は、2018年にデビュー20周年を迎えた宇多田ヒカルのキャリアに大きな飛躍のマイルストーンを打ち立てる作品となった。

 ディズニーとスクウェア・エニックスがタッグを組み、お互いのコンテンツを融合させた大人気ゲーム・シリーズの最新作『キングダム ハーツIII』。そのOPテーマとして書き下ろされた「Face My Fears」は、1月18日に全世界でリリースされると、すぐさま各地に散らばる宇多田ヒカルのファン、スクリレックスのファン、そして『キングダム ハーツ』シリーズのファンを沸騰させ、各国の配信チャートにランクイン。iTunesの総合アルバム・チャートでは、日本をはじめとするアジア諸国から、メキシコやアルゼンチン、スペインやスウェーデンまで、計24の国/地域で1位をマークし、ついには2019年2月2日付の米ビルボード・チャート“HOT 100”で98位を獲得、自身初の全米トップ100入りを果たすこととなった。

 “HOT 100”は、ラジオ、セールス、ストリーミングのデータを合算した米ビルボードの看板チャート。植野有砂によるソフィー・タッカーへの客演曲「ベスト・フレンド」を除けば、日本人アーティストの楽曲がこの“HOT 100”にチャートインするのは、ジャスティン・ビーバーのSNS投稿がきっかけでトランプ米大統領の孫娘がマネするまでになったピコ太郎「PPAP」以来、約3年ぶりとなる快挙だ。「Face My Fears」はこの週、1万ダウンロードを売り上げ、250万のストリーミング再生回数を稼いでいる。

 もちろん日本でも大きな話題となった。計8種類の指標からなるビルボードジャパン総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”において、初週13,414枚を記録してCDセールス5位、ダウンロードでは25,806DLを売り上げて3位、そしてラジオ・オンエアでは9位と、計3指標でトップ10入りした「Face My Fears」は、2019年1月28日付に総合6位でデビュー。さらに翌週は、23,173DLでダウンロード2位、1,164,608回再生でストリーミング3位、そしてラジオ・オンエアでは1位となり、再び3指標でトップ10入りを果たして総合3位にまでランクアップしている。

 日本のみならず、各国のチャートで結果を残した「Face My Fears」。そのヒットの背景にあるものは何か、振り返ってみたい。


<『キングダム ハーツIII』が記録的な売上>

 『キングダム ハーツ』シリーズが第一作目の発売から足掛け17年、複数のハードウェアを渡り歩きながら展開してきた“ダーク・シーカー編”が完結するとあって、今作『キングダム ハーツIII』は、世界中のファンの期待を最高潮にまで膨らませた。昨年12月に公開され、現在までに約600万回再生されているオープニング・ムービーのトレーラーを筆頭に、ほとんどのプロモーション映像は、公開されるたびに膨大な再生回数を記録。さらにはファンによるリアクション動画も多数アップされるなど、ユーザーを巻き込みながらムードを高めていくという、現代型ヒットの定石ともいえる展開も後押しして、1月25日(海外では29日)に発売された本作は、2月5日時点で全世界出荷・DL販売本数が500万本を超えた。これはシリーズ最速となる記録なのだそうだ。

 『キングダム ハーツIII』の盛り上がりに宇多田ヒカルの新曲書き下ろしが一役買ったことは間違いない。一方で「Face My Fears」の全米チャートインもゲームの記録的な売上なくしては成しえなかっただろう。さながら『キングダム ハーツ』と宇多田ヒカルの関係そのものを体現しているその相互補完関係は、メディア・ミックスが重要な鍵を握るコンテンツ・ビジネスの観点からも、「Face My Fears」のグローバル・ヒットの大きな要因となったことは明らかだろう。


<宇多田ヒカルと『キングダム ハーツ』を愛した相棒>

 その「Face My Fears」を語るうえで、宇多田ヒカルの相棒を務めたあの音楽プロデューサーの存在を忘れてはならない。宇多田とは2012年にドイツのメタル・フェスで出会ったというスクリレックスだ。2011年に宇多田のファンであること、そしてアルバム『ULTRA BLUE』が大好きであるということをTwitterで明かしている彼は、インタビューで「初めて“Simple & Clean”を耳にしたとき、個人的にはやや変わっていて、ポップよりな曲だと思った」と話し、「瞬時にすべての要素とコネクトした。メロディ、詞、エレクロニック・サウンドで踊れるのにエモーショナルだったこと…。これが僕が彼女について初めて知ったきっかけだった」と話している。

 『キングダム ハーツIII』の楽曲を制作するにあたって、「曲、メロディ、エモーション、詞がどのようなフィーリングである必要があるか分かっていた」と語る彼は、“シリーズもの”のゲーム主題歌に求められるものをきちんと理解していた。それはつまり、これまでに紡がれてきたキャラクターたちの物語と、それに向けられるファンの想いに寄り添うこと。ゲームの第一作目が発売された当時、14歳だった彼はそれをリアルタイムでプレイしていた。そして、その音楽に魅了された彼にとって、ユーザーの視点に立ち、感情を共有することは決して難しいことではなかったというわけだ。


<普遍性と現代性が同居した音楽>

 2017年、宇多田ヒカル、スクリレックス、そして音楽プロデューサーのプー・ベアは、英ロンドンのスタジオにいた。先に別件で会っていたというスクリレックスとプー・ベアの二人が、たまたま同じタイミングで宇多田がロンドンに来ていたことを知り、召集の連絡をしたというのだ。そして、「Face My Fears」はまさにそこで、1時間も経たないうちに完成した。

 プー・ベアといえば、ジャスティン・ビーバーの最新アルバム『パーパス』や、近年の“レゲトン・ブーム”の火付け役にもなったルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキー「デスパシートfeat.ジャスティン・ビーバー」などでグラミー賞へのノミネート経験も持つ。つまり、現行のポップ・シーンを代表するヒット・メーカーの一人だ。

 物悲しいピアノのヴァースは、宇多田の美しい歌声と伸びやかなフローを最大限に生かし、ドロップ・パートでは驚くほどミニマルなビートの上に、スクリレックス印のブロステップ・サウンドが踊る。「Face My Fears」は、ポストEDM以降のトレンド文脈をしっかりと汲み取りつつ、一方で緩急の激しい展開によって、ゲームの世界で繰り広げられる冒険劇を彷彿させることにも成功している。長い歴史を持つゲーム・ミュージックの普遍的な在り方と、現代的なサウンド&ビート・デザインの両立は、2010年代を象徴するポップ・スターの一人、ジャスティン・ビーバーの長年のコラボレーターとしても知られ、数々のヒット・ソングを手掛けてきたプー・ベアの力量によるところが大きいのかもしれない。


<戦略的なプロモーションの動き>

 プロモーションも上手だった。『キングダム ハーツIII』の国内発売から遡ること1週間前、シングル「Face My Fears」のリリースと同時に、2018年6月にリリースされた最新アルバム『初恋』のストリーミング配信も同時解禁された。デビュー・シングル『Automatic/time will tell』から2016年のアルバム『Fantome(※)』までの作品が2017年12月にストリーミング配信解禁されていたものの、『初恋』は当初CDとダウンロード配信でリリースされたのみだっただけに、国内外のファンが待望していたストリーミング配信のインパクトは大きく、話題作りに華を添えた。

 そして「Face My Fears」のリリースから3日後、『“#HikaruUtada #(Songs)“』という特設サイトが公開。「Face My Fears」とカップリング曲、そして昨年11月に配信リリースされた「Too Proud featuring XZT, Suboi, EK (L1 Remix)」のYouTube、Spotifyの総再生回数や、Spotify、Apple Musicでのソング・ランキング最高位、さらには世界中からの楽曲に関連するトピックスやInstagram、Twitterの投稿などが集約され、世界各国での盛り上がりが可視化されているサイトだ。もちろんサイト開設時点ではまだ「Face My Fears」の米ビルボード・チャート入りも未確定段階。それでも楽曲のグローバル・ヒットを予測し、その実績をしっかりとアピールする動きは用意周到というほかないだろう。

 なお、3月6日にはシングル『Face My Fears』のアナログ盤が発売。すでに発売されているシングルとは異なり、『キングダム ハーツ』シリーズのディレクター、野村哲也が描き下ろした『Face My Fears』のジャケットのポスターが封入される。

※o=正式表記はサーカムフレックス付き

◎リリース情報
LP『Face My Fears』
2019/3/6 RELEASE
<生産限定アナログ盤>
ESJL 3114 2,500円(tax in.)
※「キングダム ハーツ」シリーズ ディレクター野村哲也氏描き下ろし絵ポスター封入

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