『Harverd Dropout』リル・パンプ(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『Harverd Dropout』リル・パンプ(Album Review)

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『Harverd Dropout』リル・パンプ(Album Review)

『Harverd Dropout』リル・パンプ(Album Review)


 ここ最近、アルバムの告知をしたにもかかわらず、リリース直前で延期を発表するアーティストが増えている。リル・パンプもその1人で、本作『Harverd Dropout』は、本来自身18歳のバースデーである、2018年8月17日にリリースされる予定だったが、無免許運転による逮捕などの私情により、“せざるを得ない”状況を迎え、秋~年始にかけてシングル曲をいくつか発表した後、ようやくリリースされた。

 そのうちの1曲「Drug Addicts」は、様々なゴシップで世間を賑わせている、俳優のチャーリー・シーンがミュージック・ビデオに出演し、話題にはなったものの、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”では83位どまりで、不発に終わった。おそらく、「幼少期からドラッグは常習」など問題だらけのリリックや、HIV感染が波紋を広げているチャーリーが“医師”に扮した映像など、笑えない要素満載だからではないか……と思われる。一部マニアや一定の若者にはウケたようだが。

 一方、2018年9月に発売されたカニエ・ウェストとのコラボレーション「I Love It」は、同チャート6位まで上昇し、ブレイク曲「Gucci Gang」(2017年)の3位に続く、自身2曲目のTOP10ヒットとなった。ネットの批判を皮肉るような巨大コスチュームが話題を呼び、ミュージック・ビデオの再生回数が24時間で1,390万回再生を記録。こちらも自己記録を更新している。“笑える”程度のお下劣なリリックも若層を中心に大ウケし、アルバムのプロモーションに繋げた。プロデューサーには、東海岸のスーパースター等を多数手がけてきたDJ/音楽プロデューサー、クラーク・ケントもクレジットされている。

 続いて、引退宣言が波紋を広げているリル・ウージー・ヴァートをゲストに迎えた「Multi Millionaire」を、翌10月にリリース。ヒットこそしなかったものの、最前線のマンブル・ラップを上手く使いこなした好曲で、グッチ・メイン「Multi Millionaire LaFlare」(2016年)のサンプリングも、程よくアクセントになっている。歌詞については、ありがちなお金関連のアレコレで、たいして面白みはない感じ。

 今年に入ってからも、2曲のシングルがリリースされている。ニューイヤーに発売された「Butterfly Doors」は、「ヤオ・ミンって呼ばれてる、チン・チョン(アジア人に対する差別用語)」という歌詞の一部が中国人はじめ多くのアジア人から「不適切」だと非難され、SNSで大炎上。中国人ラッパーのピシーも、ディス・ソング「FXXX Lil Pump」で反撃する事態に発展し、結局、この歌詞を除いたクリーン・バージョン(でもないが)として再リリースするハメになった。この騒動を受け謝罪動画をアップしたものの、この内容も若干フザけていて、一部からは「ナメすぎだ」などのお叱りを頂戴している。

 1月末にリリースしたばかりの「Racks on Racks」は、独特のリズムで小節を刻む「Gucci Gang」の続編的なトラップ。アルバム中でも特に華のあるナンバーで、今後ヒットが期待できそうな曲ではある。この曲から間髪入れずに始まる「Off White」も、不気味な低音が鳴り響く、中毒性の高い傑作。本作は、キュービーツがプロデュースしたインパクト絶大の「Vroom Vroom Vroom」や、ゲーム音楽をベースにしたような「Esskeetit」など、電子音を積極的に用いたナンバーが目立つ。

 アルバム同日にリリースされた「Be Like Me」は、リル・ウェインとコラボした2000年代中期のダーティ・サウスっぽい曲。その他、同じく米フロリダ州出身の若手ラッパー、スモークパープと超高速ラップを披露する「ION」や、YGと2チェインズの2人を迎えたファレルっぽいニュアンスの「Stripper Name」、ミーゴスからは、「Fasho Fasho」にオフセット、「Too Much Ice」にはクエイヴォがそれぞれ参加するなど、ゲストも豪華絢爛。本作と同日の2月22日には、オフセットもソロ・デビュー・アルバム『Father of 4』をリリースしたばかりで、軍配はどちらにあがるのか、気になるところではある。

 紫色の図書館のような部屋で、紫のソファに座り、紫の卒業ガウンを着て満面の笑みを浮かべる、個性的なカバー・アート。言動がぶっ飛び過ぎていて、ビジュアルについての話題はスルーされてしまっている(?)が、意外とキュートな顔立ちということも、最後に付け加えておこう。ここ最近は、SNSでのトラブルなどをプロモーションに繋げるアーティストが増えているが、リル・パンプの場合、アルバム(楽曲)を売るためというよりは、 “素”に近い気がする。正真正銘のトラブルメーカーから、今後も目が離せない。


Text:本家一成


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