『ハロー・ハピネス』チャカ・カーン(Album Review)
『ハロー・ハピネス』チャカ・カーン(Album Review)

 1972年、ファンク・バンド=ルーファスのリード・ボーカルとしてデビューしたチャカ・カーン。キャリア47年目の大御所が、未だオリジナル・アルバムをリリースできるというのは、当たり前のようで難しいこと。離れていくファンもいるだろうし、自分も年老いて、流行りについていけなくなったり、ボーカリストとしての魅力が軽減してしまうからだ。それを踏まえて本作『ハロー・ハピネス』を聴くと、チャカ・カーンがいかに凄いシンガーかということを思い知らされる。

 ブルージーな雰囲気を演出するジャズ・ソング「The End of a Love Affair」(1988年)から、カニエ・ウェストの「Through the Wire」(2004年)にネタ使いされ再燃したメランコリック・メロウ「Through the Fire」(1984年)、そして自身最大のヒット曲であるディスコ・ファンク「I Feel for You」(1984年)まで、幅広いジャンルの楽曲を硬軟自由に歌いこなしてきたチャカだが、その“伸び”や“張り”は一切衰えていない。彼女の声帯はいったいどうなっているのだろうか……。

 サウンド面については、お世辞にも“最新の”とはいえるものはないが、往年のファンも納得のファンク~ニューヨーク・ディスコ中心の、チャカらしい楽曲が揃っている。メイン・プロデューサーには、イギリス・ロンドン出身のハウス系DJ=スイッチを迎え、現代的な感覚も絶妙に取り入れてはいるが、時代の波に無理に乗ろうとする焦りなど、女王にとっては不要。

 元旦に開催された【ローズ・パレード 2019】で披露した先行シングル「Hello Happiness」は、ディスコ時代から繋いだ、80年代初期のハウス・トラックを焼き直したようなナンバー。旋律もチャカの“王道”といった感じで、古いアルバムしか聴いたことのないリスナーも、違和感なく受け入れられる。2曲目の「Like A Lady」も、ソロ・デビュー曲にしてR&Bチャート1位をマークした代表曲「I'm Every Woman」(1978年)に通ずる70年代風ディスコ。盛り上がり絶頂で放つど迫力の高音には、もう聴き入るしかない。

 ロック色を強めたエレクトリック・ファンク「Don't Cha Know」~ヒップホップ的アプローチもみせた脂テカテカの重圧ファンク「Too Hot」、そして旧友・故プリンスの死を受けて制作したかのような、ミネアポリス・ファンク直結の「Like Sugar」と、3曲連続でアグレッシブなナンバーが続く。6曲目の「Isn't That Enough」では一転、大流行中のレゲトンやダンスホールではなく、古き良きロック・ステディ風のレゲエに挑戦している。地味ながら繊細な造りのアコースティック・ソウル「Ladylike」も、超カッコいい。

 本作『ハロー・ハピネス』は、R&Bチャート5位をマークした前作『ファンク・ディス』(2007年)からおよそ12年ぶりにリリースされた、<アイランド・レコーズ>移籍後初、通算12作目となるスタジオ・アルバム。 サウンド自体は懐かしくも、決して古臭くは感じさせない、チャカの魅力が存分に詰まったアルバムだと太鼓判を押す。それだけに、7曲という曲の少なさにはテンションが下がってしまうが、1曲1曲の質を考慮すれば、それも大目にみられる。

Text:本家一成