ジャネット・ジャクソン、来日ツアー初日レポート ダンスと歌、名曲の数々を通して表現されるポップの女神の“いま”(Text:池城美菜子)
ジャネット・ジャクソン、来日ツアー初日レポート ダンスと歌、名曲の数々を通して表現されるポップの女神の“いま”(Text:池城美菜子)

 アメリカの永遠の妹、ジャネット・ジャクソンは怒っていた。
 2月10日、2017年から2018年にかけて、北米56都市(!)を回った【STATE OF THE WORLD TOUR】が、東京・日本武道館に到着。そのオープニングは、戦争、飢餓、Black Lives Matter(黒人の命だって大切だ)のムーブメントにかかわらず一向に減らない警察による黒人への暴力、人種や性差別にたいする彼女の抵抗と怒りを強く押し出した映像が流れた。ツアー名は91年、28年以上も前の曲名からだ。その歌詞を口ずさみながらジャネットが登場、「正義を!( We Want Justice )」とのメッセージで締めたあと、「言いたいこと、わかった? よかった、踊りましょう(Get the point? Good, Let's dance)」と切り替える。ミッシー・エリオットとの「Burnitup!」から「Nasty」へと、ダンス全開モードに突入。バックは男女4人ずつのダンサー、5ピースのバンドとDJ、コーラス2人という構成。大掛かりなツアーでは普通、ダンサーの外見のバランスを揃えるものだが、ジャネットの「バランスの取り方」はひと味ちがう。「すべての人は美しい」とのメッセージを送り続けてきた彼女らしく、人種と体型、おそらくセクシャリティーもバラバラだったのだ。彼らは完璧に揃えたコリオグラフのうえに、個性をのせられる実力者ばかりで、ダンスをしている人なら一度は見るべきステージだ。そして、真ん中で歌って踊るジャネットの切れ味といったら。お兄さんのマイケルも過酷なオーディションを勝ち抜いた強者ダンサーを揃えてなお、全員をねじ伏せてしまう踊り手だったが、ジャネットも同じ。褐色のアフロと黒い衣装に身を包み、彼女の一挙一動が武道館の空を斬る。パフォーマンスは挑発的なのだが、「Escapade」「When I Think of You」あたりのクラシックで、あの愛くるしい笑顔を見せるから、ファンは骨抜きになってしまう。そのかわいらしさが全開になったのが「All For You」。

 著名な写真家、ハーヴ・リッツによる有名なヴィデオを流しながら歌う、「Love Will Never Do(without you)」も美しかった。膨大な代表曲を短くつないで次々と聴かせながら、MTVなどで何億回と流れたPVを効果的に流す。完璧なスタイルを誇っていた若い頃の映像をバックグラウンドに流したまま、いまの自分を見せられる52歳なんてジャネットくらいだろう。それ自体が、ひとつのメッセージだ。「The Body That Loves You」などで見せるセンシュアルな表現力と、「ウタッテクダサイ」という拙い日本語でのMCの愛らしさのギャップが見られるのはライブならでは。「No Sleeep」ではヴィデオのヴァースを吐くラッパー、Jコールと絡んで、ヒップホップに目配せ。ブレイクで流した、きれいなメイクを乱暴に拭い取ってぐちゃぐちゃにするヴィデオは、離婚したばかりの彼女の心情を表しているようだった。グッときたのが「Together Again」。昨年、他界した父親のジョー(ジョセフ)・ジャクソンの写真を大写しにしてトリビュートしたのだ。兄たちに厳しく当たったことで悪く描かれがちな人だが、ジャネットにとってはいまの自分を作ってくれた大事なお父さんなのだ。高めの声で叫ぶ「What About Us」や「If」で、「やはりマイケルに声が似ているな」と再認識したところで、「Scream」。1995年に発表した、初めてのコラボ曲だ。ゴシップメディアにつけ回されていたマイケルをジャネットがサポートした背景があり、キング・オブ・ポップのライバルはほかでもない、自分の妹だったという事実がわかった歴史的な曲でもある。いまとなっては、ジャネットは自身のレガシーとともに兄の存在も背負う運命になったことを示していて、感慨深かった。圧巻だったのが「Rhythm Nation」。アワードの演出の定番になった群舞の起源であり、ビヨンセや安室奈美恵のスタイルに大きく影響を与えたパフォーマンスだ。クライマックスはダディ・ヤンキーとの新曲「Made For Now」。ダディ・ヤンキーはレゲトンのアーティストだが、この曲のベースはソカである(あまり指摘されないが、フックはソカ・キング、マシェル・モンターノの曲によく似ている)。フェスティヴな明るいムードで締めたのが、ジャネットの“いま”を伝えていた。ジャネットの存在は鉄壁で、アイコンであり続けながら、ポップの女神として世界を見守っている。【STATE OF THE WORLD TOUR】は、それがよくわかるライブだった。

 なお、公演は本日2月11日も日本武道館にて開催。ジャパン・ツアー最終日となる。

Text:Minako Ikeshiro/池城美菜子

◎公演概要
【JANET JACKSON STATE OF THE WORLD TOUR 2019】
東京・日本武道館
2019年2月10日(日)
OPEN 17:00 / START 18:00
2019年2月11日(月・祝)
OPEN 16:00 / START 17:00