『ザ・サン・ウィル・カム・アップ、ザ・シーズンズ・ウィル・チェンジ』ニーナ・ネスビット(Album Review)
『ザ・サン・ウィル・カム・アップ、ザ・シーズンズ・ウィル・チェンジ』ニーナ・ネスビット(Album Review)

 スコットランド・ロージアン州出身、現在24歳の女性シンガーソングライター=ニーナ・ネスビット。造りのしっかりした美しい顔立ち、芯の強いボーカル、質の高いソングライティング力と、魅力的な要素はいくつも持ち合わせているが、唯一無二の個性みたいなものは感じられず、“誰かっぽい”というか、どこか二番煎じ的な印象を受けてしまう。

 本作『ザ・サン・ウィル・カム・アップ、ザ・シーズンズ・ウィル・チェンジ』は、2014年2月にリリースしたデビュー・アルバム『ペルオキシド』に続く、5年ぶり、2枚目となるスタジオ・アルバム。このアルバムでも、やはり強烈なインパクトみたいなものは感じられなかったが、“安定感のあるポップ・アルバム”という視点でみれば、質の高い作品だといえる。キャリアと年齢を重ねたからこそ表現できる、硬軟を使い分けたボーカル・ワークにもご注目。

 全13曲を自身が手掛け、プロデューサーにはアデルの「セット・ファイア・トゥ・ザ・レイン」や、ブリトニー・スピアーズの『ファム・ファタール』等を担当したフレイジャー・T.スミスを招いている。フレイジャー・T.スミスは、ラッパーのドレイクや、ロック・バンドのバスティル、R&Bシンガーのクレイグ・デイヴィッド、ポップ・シンガーのエリー・ゴールディング等、幅広いジャンル・世代のアーティストを多数手がけるベテラン。本作では、2人の才能が合致した、流行り廃りのない楽曲が詰まっている。

 アルバムからの1stシングルとして2017年7月に発表した「ザ・モーメンツ・アイム・ミッシング」は、シンプルなピアノのコード譜とボーカルだけでドラマチックな展開を起こす、マイナー調のメランコリック・メロウ。サウンド自体はシンプルだが、曲前半・後半でしっかりとメリハリをつけたボーカルが、曲を彩る。同年9月にリリースした2ndシングル「ザ・ベスト・ユー・ハド」も、同系のミッド・チューン。プロダクション・チームのレッド・トライアングルがプロデュースしたピアノ・バラード「イズ・イット・リアリー・ミー・ユア・ミッシング」も好曲。

 昨年8月にリリースした4thシングル「ロイヤル・トゥ・ミー」は、90年代後半に巻き起こった“アイドル・ブーム”を彷彿させるポップ・チューン。その半年前に発表した3rdシングル「サムバディ・スペシャル」のような、トラップ・ベースの今っぽい曲も悪くはないが、ここは「ロイヤル・トゥ・ミー」のような、ダサカッコイイ(?)ティーン・ポップで攻めても面白かったカモ。90年代といえば、シェイクスピア(TLC、デスティニー・チャイルド等)っぽいR&B調の「ラブ・レター」もいい曲。この曲には、英マンチェスターの女性シンガーソングライター=Jin Jinもクレジットされている。

 サウンド・歌唱ともに、リアーナをそのまま映したようなオルタナティブR&Bの「クロエ」や、初期のテイラー・スウィフトっぽいアコースティック・メロウ「シングス・アイ・セイ・ホエン・ユー・スリープ」~「ラスト・ディセンバー」、そしてアルバムを締めくくる壮大なバラード曲「ザ・サン・ウィル・カム・アップ、ザ・シーズンズ・ウィル・チェンジ」と、後半4曲は文句なしの出来栄え。ということは、アップよりもミッド~バラードで本領を発揮できるアーティストなのかもしれない。

Text:本家一成