NELL、韓国を代表するロック・バンドがアコースティック・セットで表現した繊細さと壮大さ――会場を極上の歌声とサウンドで包み込んだ美しきステージ
NELL、韓国を代表するロック・バンドがアコースティック・セットで表現した繊細さと壮大さ――会場を極上の歌声とサウンドで包み込んだ美しきステージ

 日本のヒットチャートやイベント、音楽番組に登場することも日常的になり、すっかり身近になっている韓国音楽。本国でも、ダンス系グループを中心に人気を獲得するミュージシャンが多い中、数多くのステージに立つライブ・バンドとしてロック・ミュージックを韓国ヒットチャートに送りこみ続け確固たる地位を築いているのがNELLだ。

 2003年のメジャーデビュー以降、実力は着実に認められていき、韓国のロック・フェスでのヘッドライナー出演やアリーナ級の大規模ライブも多数行っており、コールドプレイのクリス・マーティンが彼らの曲をフェイバリット・ソングに挙げたことも広く知られている。そして、今年11月14日に韓国でアコースティック・アルバム『Let's Part』をリリース。その世界観を表現する一夜限りのスペシャル・ライブが11月30日にビルボードライブ東京で行われた。

 今回はバンドメンバーである、キム・ジョンワン(Vo/G)、イ・ジェギョン(G)、イ・ジョンフン(B)、チョン・ジェウォン(D)の4人に加え、サポートにキーボードのノ・シムジが入った5人編成。更にキム・ジョンワンは登場するや、自身のためにセットされていたもう1台のキーボードの前に座り、普段と異なる演奏が行われるライブとなることを予感させた。英語や日本語も交えつつ簡単に観客に挨拶を済ませ場を和ませると、ジョンワンは鍵盤に手をかけ「underbar」のイントロを奏で始める。そうすると会場は一気に厳かともいえる雰囲気へと変化していく。電子音楽の要素が強かった原曲と違い、シンプルなピアノ弾き語りスタイルの導入部ではじまるこの曲は、今回のアレンジによって特に大きく生まれ変わったものとなっており、この公演で表現するモノを明確に示していた。

 続く「Holding onto Gravity」、そしてジョンワンがアコースティック・ギターに持ち替えた「Vain Hope」も旋律の美しさと透き通るような繊細な歌声で観客を魅了。メンバーそれぞれが曲ごとに紙やスマホのメモを読みながら日本語で行っていたMCをギターのイ・ジェギョンが務め、「(観客が)近くて緊張するけど楽しい」と語りつつ演奏を始めた「Home」では、彼のギターがイントロ、中盤とラストのソロで紡いだ音で印象的な場面を演出していた。

 また、「NELLスタイルの応援曲」と言ってアルバム『Let’s Part』には収録されていない「Dream Catcher」も披露。原曲からはリズミカルなドラミングをやや抑え目にしつつ、ピアノが際立つようにするなど、この日のステージに馴染むようにアレンジをキチンと加えていた。その上でサビは、伸びやかに歌い上げるヴォーカルと各パートの演奏がメロディの盛り上がりとシンクロするように力強さを帯び、壮大に音が広がるNELLらしいサウンドをみせてくれた。

 ステージ後方のカーテンが開き東京の夜景とイルミネーションをバックに歌い始めた「Dear Genovese」をジョンワンが優しさや上手さだけではない彼の歌唱力の幅広さをハイトーン・ボイスで見せつけ、次の「Healing Process」をリラックスしながら歌ってくれた。

 そしてついに、「日本のファンに意味ある贈り物として準備した」という曲の紹介から新曲「Let's Part」の日本語バージョンである「元気でいて」を初披露した。「上手くないけど、一生懸命練習したので優しい気持ちで聴いて」と曲紹介時に語っていたが、恋の終わりを歌う切ない歌詞はしっかりと届き、言葉一つ一つが胸に響く、かけがえのない瞬間を作り出していた。

 締めくくりには彼らの大ヒットナンバー「Time Walking on Memories」、そして「Island」を演奏し、『Let's Part』から全曲が披露され幕を閉じた。今回のアルバムについて、本人たちの言葉を借りれば「典型的なアコースティック・アレンジというより、既存の曲を違う方向で再解釈した編曲と思っていただければ良い思います。これまでの楽曲を新しい感性でリアレンジしたアルバムです。」と来日前のインタビューで語っており、その言葉通り単にセットを変えて演奏しただけではなく、それぞれの楽曲に改めて向き合い、新たに命を吹き込むような姿勢がハッキリとみえるパフォーマンスだった。

 そして彼らの公演には内容やシチュエーションによって異なるサブタイトルが付けられているが、今回掲げられていた言葉は<HOME>。ビルボードライブのような会場は初めてだったという中で、MCの間にも客席との距離の近さから「緊張する」というワードを各メンバーが時おり発していたが、最終的には和やかに観客とやり取りも交わし、打ち解けてだいぶ馴染んだ様子だった。その光景をみると日本が彼らにとってHOMEと感じられる場所になっているのではないかと期待したくなる。

Photo:Taku Fujii

◎楽曲情報
初の日本語楽曲「元気でいて」2018年12月5日配信リリース
作詞:キム・ジョンワン / 日本語歌詞:いしわたり淳治 / 作曲:キム・ジョンワン / 編曲:NELL
配信URL:https://linkco.re/ZEE43qbn

「元気でいて」MUSIC VIDEO (日本語バージョン)
https://www.youtube.com/c/SPACEBOHEMIAN

◎公演情報
【NELL
NELL'S SEASON 2018 <HOME> in Tokyo】
ビルボードライブ東京
2018年11月30日(金)※終了
詳細:http://www.billboard-live.com/