『Oxnard』アンダーソン・パーク(Album Review)
『Oxnard』アンダーソン・パーク(Album Review)

 今年7月に開催された【FUJI ROCK FESTIVAL '18】でのパフォーマンスが絶賛された、米カリフォルニア州オックスナード出身のシンガー/ ラッパー=アンダーソン・パーク。日本での知名度はまだまだ……といったところだが、コア・ファンからは絶大な支持を得ている実力派。そんなファンたちが待望した2018年11月16日にリリースの新作『Oxnard』は、独自のサウンド・センスが光る傑作に仕上がった。

 本作は、2014年10月にリリースしたデビュー・アルバム『ヴェニス』、R&B/ヒップホップ・チャートで自身最高9位をマークした、2016年の2ndアルバム『マリブ』に続く、約2年半ぶり、3作目のスタジオ・アルバムで、“ビーチ・シリーズ”第3弾となる完結編。プロデューサーには、2015年にリリースした15年ぶりの復帰作『コンプトン』でアンダーソン・パークを起用したドクター・ドレーを中心に、名だたるヒットメイカーたちが参加している。

 そのドクター・ドレーの他、スヌープ・ドッグやQティップといたレジェンドから、ケンドリック・ラマー、プシャ・T、BJ・ザ・シカゴ・キッド、J.コール、カディア・ボネイ等人気ミュージシャンがゲストとして参加。そのケンドリック・ラマーをフィーチャーした先行シングル「Tints」は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初のランクインを果たし(81位)、R&B/ヒップホップ・チャートでは10位まで上昇するスマッシュ・ヒットを記録した。

 「Tints」は、80年代ディスコを焼き直したようなレトロ感たっぷりのサウンドに、軽快に刻むアンダーソン・パークのボーカルを乗せた、極上のブーギー・ファンク。ちょっと下品なシーンをコミカルに描いたミュージック・ビデオも傑作で、基であるドラマーとしてのシーンも登場する。アルバム・リリース前に公開されたもう1曲の「Who R U?」は、ドレーに加えデム・ジョインツ(リアーナ、スクールボーイQ、ジャネット・ジャクソンなど)がプロデューサーとして参加した、ヒップホップ・チューン。前者はシンガーとして、後者ではラップ・スキルの高さをアプローチしている。

 歌とラップを交互に掛け合わせた「6 Summers」~9thワンダー(ドレイク、デ・ラ・ソウル、エリカ・バドゥなど)がプロデュースした「Saviers Road」、「Smile / Petty」などの生音を重視したオーガニック・ヒップホップ、ラテン・フレイバー漂う「Headlow」、プシャ・Tとコラボした70年代ファンク風の「Brother's Keeper」など、世代を超えたブラック・ミュージックが本作の魅力。アルバムのリリース前、米ローリング・ストーン誌のインタビューで、カニエ・ウェストのデビュー作『ザ・カレッジ・ドロップアウト』(2004年)を挙げ、「学生の時に影響を受けた作品に近い仕上がり」だと話していたアンダーソン・パークだが、たしかにそういった要素が所々にみられる作品ではある。特に、BJ・ザ・シカゴ・キッドが参加した「Sweet Chick」なんかは、まんまカニエだし……。

 スヌープが気だるく歌うチルアウト・ミュージック「Anywhere」、ドレーとニッキー・ミナージュそっくりに歌うブルックリンの女性ラッパー、ココア・サライが参加したハードコア(寄り)の「Mansa Musa」、Qティップ本人の曲かと錯覚する「Cheers」など、ゲストの特色もしっかり活かされている。J.コールをフィーチャーした「Trippy」も、大ヒット中の最新作『KOD』のテイストに近い、90年代っぽい仕上がりになっている。ボーナス・トラックとして収録されたラストの「Left to Right」も、ノスタルジックな雰囲気のヒップホップ・チューン。若者向けというよりは、上の世代に好まれそうなアルバムではある。

 2017年の【第59回グラミー賞】では<最優秀新人賞>にノミネートされるなど、注目が高まりつつあるアンダーソン・パーク。前作が高く評価されただけに、新作へのプレッシャーもあったと思われるが、そんなことを微塵も感じさせない“マイペース”さを維持した作品となった『Oxnard』。ちょっと残念なのは、Appleのスマートスピーカー<HomePod>のCMに起用された「Til It’s Over」が収録されていないことだが、アルバムのカラーとは異なることもあり、外したのも理解はできる。まあ、ストリーミング強化のこの時代には、(未収録でも)あまり関係のないことだけど。

Text:本家一成