『BALLADS 1』Joji(Album Review)
『BALLADS 1』Joji(Album Review)

 米サンフランシスコ出身の日系アメリカ人、ショーン・ミヤシロが立ち上げた、米ニューヨーク拠点のマスメディア企業<88rising>所属のジョージ(Joji)が、2018年10月26日に待望のデビュー・アルバム『BALLADS 1』をリリースした。<88rising>としては、今年7月に初のアルバム『Head in the Clouds』をリリースしたばかりで、本作は米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”で76位と勢い振るわずだったが、レビューなどをみる限り、リスナーには高く評価されている。

 プロデューサーには、米ニューヨークのシンセ・ポップ・デュオ=チェアリフトのパトリック・ウィンバリーや、ザ・ウィークエンドやトラヴィス・スコットなどの人気アーティストを手掛ける米LAの音楽プロデューサーのRLグライム、カナダのプロデューサー/DJのライアン・ヘムズワース、リル・ヨッティやトリー・レーンズなどのアルバムに参加した、米LAのミュージシャン=D33Jなどがクレジットされている。

 そのD33Jと、エレクトロ・シーンで大注目されているヘンリー・ロウファーによるソロ・プロジェクト=シュローモが参加した「Why Am I Still in LA」や、ミゲルあたりが歌いそうな9月リリースの先行シングル「Slow Dancing In The Dark」など、本作はドリーミーなオルタナティブ・R&Bが満載。「Wanted U」や「Yeah Right」もその路線で、前者は最後のギター・ソロが故プリンスを彷彿させる。

 「Test Drive」や「Come Thru」、「Psycho」ソックリな「XNXX」など、ポスト・マローン直結のタイトルもあり、本作も彼の大ヒット作『Beerbongs & Bentleys』(2018年)同様、ジャンルをひとくくりにできないアルバムといえる。 ピアノと重低音のシンプルなメロウ・チューン「Attention」なんかも、ヒップホップ・ソングとはいえない。まあ、ここ最近の“ヒップホップ”とされているアルバムが、ほとんどこの系統ではあるのだが。“ラップ・アルバム”ではない、が正しい表現か?オハイオ州の若手ラッパー=トリッピー・レッドと再びタッグを組んだトラップ「R.I.P」が、もっともヒップホップ“らしい”。

 エイサップ・ロッキーや故マック・ミラーなどに楽曲提供した、米ニュージャージー州出身のソングライター=クラムス・カジノをフィーチャーした「Can't Get Over You」や、英ロンドンのDJ=ジャム・シティがプロデュースした「No Fun」など、重たいサウンドの合間に一呼吸できるエレクトロ・ポップもいい曲で、彼の歌唱力や政治的・社会的な内容をしっかり捉えた歌詞も、聴きどころ。ドラッグや鬱を連想させる内容には、ハっとさせられるが……。

 本作は「変化」をテーマに作られた意欲作だそうで、たしかにピンクの被り物を着て踊り狂っていた“ピンク・ガイ”名義の『ピンク・シーズン』(2017年)とはまったく違う作風に仕上がっている。夢に出てきそうな超コワいジャケ写とはウラハラに、とてもアジア人のセンスとは思えない(言い方は適切でないかもしれないが)、アメリカの若者が好みそうな高クオリティのサウンド・センスに感服。ジョージは、2019年1月に<88rising>のイベントで来日する予定。

Text: 本家 一成