『エラ・メイ』エラ・メイ(Album Review)
『エラ・メイ』エラ・メイ(Album Review)

 EDMフィーバーから、トロピカル・ハウス~ダンスホールに流行は移り、そして今、再燃しているのが、90年代に回帰したR&B/ヒップホップだ。

 今年最大のヒット作である、ドレイクの『スコーピオン』や、トラヴィス・トラヴィス・スコットの『アストロワールド』などには、90年代アーティストの“ネタ使い”がされているし、ジョルジャ・スミスやカリードなど、若手R&Bシンガー等も、当時のテイストをうまく取り入れている。

 その中でも、“90年代っぽさ”を強調した、エラ・メイの「ブード・アップ」は強烈だった。売れっ子プロデューサーのDJマスタードと、米カリフォルニア出身の女性シンガー・ソングライター=ジョエル・ジェームス、そしてエラの3人で制作した同曲は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で5位、R&Bチャートでは自身初のNo.1を獲得し、90年代リバイバルの先駆けとなった。同曲は、R&B/ヒップホップ・エアプレイ・チャートで通算16週連続の首位をマークし、女性アーティストとしては歴代最高記録を更新している。

 マライアの「ファンタジー」(1995年)を基とした、ドリーミーなミュージック・ビデオも色濃く出ているし、スパイラルパーマやオンブルリップなど、ビジュアル面でもひと昔前をリメイクしている。……と、いうこともあり、彼女の音楽は、若年層のみならず、アラフォー以降の世代にもしっくりくるのだ。

 その「ブード・アップ」含む、彼女のデビュー・アルバムは、自身の名前を冠した、彼女らしい作品に仕上がった。ピンクのファーを着て映るアートワークも、アナログ受けしやすい感じ。ちなみに、本作収録の「オウン・イット」には、「フリーク・ライク・ミー」(1995年)のヒットで知られる、アディーナ・ハワードの「Tシャツ&パンティーズ」(1998年)がサンプリングされている。まさに、90年代R&Bのリバイバルといえるタイトルだ。

 LP盤に針を落とすシーンからはじまるミュージック・ビデオが、間もなく2000万視聴を記録する、アルバムからの2ndシングル「トリップ」も、ミッドテンポのいい曲。ピアノベースのシンプルなサウンドに、エラの自信と謙虚さを兼ね備えたボーカルが乗っかり、聴き手を魅了する。

 オープニングを飾る「グッド・バッド」は、ドレイクの「パッションフルーツ」で知名度を高めたナナ・ローグスによる、カリビアン・テイスト溢れるナンバー。エラも敬愛するマライアや、メアリー・J.ブライジなどを手掛けるブライアン・マイケル・コックスが担当した“責め”のアップ「デンジャラス」や、ニュー・ウェイブ界で高い人気を誇るモダン・イングリッシュの「アイ・メルト・ウィズ・ユー」の一部が使われた子守歌のような繊細なピアノ・バラード「イージー」など、どんな曲調でも自分色に染め上げる。

 歯切れの良いミッド・チューン「ソース」、リアーナをお手本にしたような、ハーモニー・サミュエルズによるプロデュース曲「チープ・ショット」、高低差・硬軟を自在に操る「ショット・クロック」、米カリフォルニア出身の新星R&Bシンガー=H.E.R. (ハー) とタッグを組んだドリーミーR&B「ガット・フィーリング」など、どれをとっても黒く、重いが、聴き心地は抜群。ソウルフルながら、声質が比較的細いので、聴き手に疲労をあたえないのが、彼女のボーカリストとしての魅力でもある。

 クリス・ブラウンとデュエットした「ワチャマコリット」は、クリス・ブラウンがリル・ディッキーとコラボした「フリーキー・フライデー」(全米最高8位)ソックリな仕上がりで、シングル・カットしたらヒットが期待できそうな1曲だ。ジョン・レジェンド“っぽさ”に上手く乗っかった古典的な「エブリシング」も好曲。

 英サウスロンドン出身。今年の11月で24歳のバースデーをむかえるエラ・メイは、2014年に“Arize”というトリオ・グループのメンバーとして、イギリスの人気オーディション番組『Xファクター』に出場し、グループ解散後の翌2015年からソロ活動をスタートさせた。3作のEP盤をリリースし、今年2月にリリースした「ブード・アップ」で大ブレイクを果たす。8月に開催された【MTVビデオ・ミュージック・アワード 2018】では、“ソング・オブ・サマー”に、10月10日に開催された【アメリカン・ミュージック・アワード2018】では、<最優秀女性ソウル/R&Bアーティスト>と<最優秀 ソウル/R&B>の2部門にノミネートされ、注目を集めた。

 今月4日からは、ブルーノ・マーズの【24マジック・ワールド・ツアー】でオープニング・アクトを務めるエラ・メイ。前座ではなく、もはやメイン・アーティストとして大きなホームを埋め尽くすことができる、トップ・アーティストの1人に成長している彼女の、今後の活躍に期待。

Text: 本家 一成