『トレンチ』トゥエンティ・ワン・パイロッツ(Album Review)
『トレンチ』トゥエンティ・ワン・パイロッツ(Album Review)

 米オハイオ州出身、タイラー・ジョゼフ、ジョシュ・ダンの2人による“オルタナティブ・ロック・デュオ”……とカテゴライズされているが、ヒップホップやレゲエなど、ジャンルをクロスオーバーした楽曲も多数あり、彼らを“何系”みたいに表現することはなかなか難しい。曲調も特徴的で、「トゥエンティ・ワン・パイロッツ っぽい」としか言い表せない、独自の世界観を確立している。

 2015年に発表した4thアルバム『ブラーリーフェイス』からは、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高2位をマークした「ストレスド・アウト」が大ヒット。この曲でブレイクして以降、本作収録の「ライド」(最高5位)も続けてTOP10入りし、アルバムも自身初のNo.1獲得を果たした。翌2016年には、映画『スーサイド・スクワッド』のサントラ盤に提供した「ヒーサンズ」も最高2位を記録し、全世界で彼らの知名度が高まったことは、言うまでもない。

 本作『トレンチ』は、その大ヒット作『ブラーリーフェイス』に続く5枚目のスタジオ・アルバム。本作からは、今年7月に2曲のシングルが同時リリースされている。

 そのうちの1曲「ジャンプスーツ」は、本作のオープニングを飾る、アルバムの軸ともいえるナンバー。彼らの王道ともいえるオルタナティブ・ロックで、ファンタジー映画のような世界観の大掛かりなミュージック・ビデオも話題となった。もう1曲の「二コ・アンド・ザ・ナイナーズ」は、ダブやレゲエの要素を絶妙な配分でブレンドしたミディアム・ロック。マッシヴ・アタックあたりのブリストル系をリメイクしたようなサウンドが、1周まわって斬新に聴こえる。

 この2曲含め、全タイトルをメンバーのタイラー・ジョセフが制作し、米ニューオリンズ出身のロック…バンド=ミュートマスのメンバーでプロデューサーのポール・ミーニーが、制作・プロデュースに携わっている。前作とはちょっとカラーが違うのも、彼が参加したことによる影響かと思われる。とはいえ、「期待していたのと全然違うけど?」というガッカリ感はないので、ご安心を。

 「ストレスド・アウト」のような、キャッチーな旋律にラップを絡めた 「レジェンド」や、歯切れの良いフックのファルセットが耳に残る「マイ・ブラッド」など、ロックとヒップホップが融合したタイトルはもちろん健在。「レヴィテイト」や「モーフ」など、ラップをメインとしたヒップホップ色の強いタイトルも充実していて、後者はホーン使いが(いま流行りの)90年代っぽく、シングルカットできるクオリティの高さ。

 強く訴えるかのようにラップする「ペット・チーター」や、ピアノのイントロが仄暗く美しい、マイナー調の「ネオン・グレーヴストーンズ」など、エミネムを意識しまくった曲もおもしろい。この“闇”を感じさせるあたりも、エミネム・フォロワーにはたまらないだろう(影響を受けているのかな?)。彼らの曲は、(ヒーサンズとかもそうだが)美しいメロディの中にも毒素があるのがいい。哀愁系のメロウ・チューン「バンディート」なんかは、その大本命。

 そればかりが続くのではなく、「ライド」の続編的なチルアウト系の「スミザリーンズ」や、ちょっと気だるいボーカルで歌う、前編・後編とリズムが変化する「クローリーン」など、ミッドテンポ~メロウ・チューンで息抜きさせてくれるのが、本作の持ち味でもある。合間には、90年代のレッチリを彷彿させるオルタナ・ロック「ザ・ハイプ」や「カット・マイ・リップ」も挟んでるし、映画のエンディングのような壮大なバラード「リーヴ・ザ・シティー」もあるし。それでいて、「売ってやろう」っていうビジネスライクな感じがないのも、トゥエンティ・ワン・パイロッツらしくていい。本作には、そういった要素がたくさん詰まってるんじゃないかな。

 本作『トレンチ』をひっさげて、10月16日のナッシュビル公演からワールド・ツアーをスタートさせるトゥエンティ・ワン・パイロッツ。アメリカはもちろん、オーストラリアやヨーロッパは回る予定だが、今のところ来日する予定は決まっていない。

Text: 本家 一成