バーンスタイン『パリのアメリカ人』 指揮者・作曲家両面の魅力満載なBOXセット(Album Review)

Billboard JAPAN

 20世紀を代表する偉大な指揮者のひとりで、同時に偉大な作曲家であったレナード・バーンスタイン(1918-1990)は、ことし8月25日、生誕100周年を迎えた。この記念日にあわせ、レコード各社からは、指揮者レニーの業績を集めさまざまなBOXセットが発売されるとともに、作曲家バーンスタインの作品演奏も、陸続とリリースされた。ここでは遅ればせながら、このBOXを取り上げる。

 このBOXセットは、バーンスタインがフランス国立管弦楽団とタッグを組んで旧フランスEMIに遺したアルバム5枚の再発を含む7枚組である。再発となったのは、1)ベルリオーズ『幻想交響曲』、2)同『イタリアのハロルド』、3)ミヨー『世界の創造』、『ブラジルの郷愁』抜粋、『屋根の上の牡牛』、4)ムスティスラフ・ロストロポーヴィチとのシューマンのチェロ協奏曲とブロッホの『シェロモ』、5)アレクシス・ワイセンベルクとのラフマニノフのピアノ協奏曲第3番である。何度も再発されてきた名盤についていまさら付け足す言葉もいらないだろう。しかしこのBOXは、再発を集めた、タダの廉価BOXではない。フランス国立視聴覚研究所・INAのアーカイヴに遺されていた音源を音盤化したものが含まれており、これこそがとびっきりの目玉である。

 目玉は3つ。まずは、1975年9月20日、パリはシャンゼリゼ劇場での、オール・ラヴェル・コンサートのライヴ録音の模様だ。実は嘗て日本のドリームライフが、コンサート映像をDVDとして販売していたため、完全初出というわけではないのだが、だからといって価値が減ずるわけではない

 2つめの目玉、それはワイセンベルクとのラフマニノフ盤の余白に収録された、ラヴェル・コンサートのリハーサル風景である。そして3つめが、4年後の1979年9月12日に、やはりシャンゼリゼ劇場でライヴ録音された自作自演だ。

 ラヴェル・コンサートは、フィルアップの『道化師の朝の歌』から、バーンスタインの流れるようなタクトが生み出す、なまめかしく官能的な音楽の波動が、聴く者の琴線にダイレクトに語りかける。マリリン・ホーン独唱の『シェエラザード』、ピアニストとしてのバーンスタインの十八番中の十八番、ピアノ協奏曲の弾き振り、ボリス・ベルキンを独奏に迎えた『ツィガーヌ』、『ラ・ヴァルス』に『ボレロ』、と、豪華なソリストを迎え、取り上げる曲のスタイルも多彩。こんなゴージャスな演奏会で座席に腰を落ち着けることの出来た人々は、まこと幸運というほかない。

 リハーサルが収録されているのは『道化師』、『シェエラザード』、ピアノ協奏曲、『ラ・ヴァルス』。指示はすべて流暢なフランス語でなされている。唸ったり歌ったり叫んだり、とレニー節が全開だ。特にリズムとアクセントを重視する姿勢は一貫しており、ピアノ協奏曲では、一気に高潮してトゥッティとなるが、バーンスタインがピアノソロを弾くため当然のことながら指揮できない第1楽章の練習番号16で、どうしても遅れてくるオケに執拗に繰り返しを求め、後続の18でも、ピアノなしでの入念な練習を行い、細部を詰めてゆく。時にイラついた声を挙げるものの、恐怖で団員たちを支配したコワモテ指揮者たちとのリハとは大違い、もちろん厳しいハードルを課しつつ、団員たちに体当たりをかまし、音楽を共に作り上げようとする、バーンスタインの強烈な引力とオーラが確かめられよう。

 自作自演の交響組曲『波止場』は、エリア・カザン監督、マーロン・ブランド主演の映画のために作曲した音楽を編んだもの。『シンフォニック・ダンス』は、ブロードウェイで大当たりを取ったミュージカル『ウェストサイド・ストーリー』からダンスナンバーを抜き出し、ミュージカルの脈絡とは無関係に配列して、弦楽用に編曲したものである。フランス国立管の非常にフランス的な色彩の豊かさと流麗さはそのままに、ポテンシャルのパワーを、煽り立てて十二分に引きだ下ダイナミックな音楽が繰り広げられる。指揮者と作曲家、双方のバーンスタインの魅力が詰めこまれたBOXである。Text:川田朔也

◎リリース情報
『パリのアメリカ人~ バーンスタインONFレコーディング&コンサート』
9029.568954 / 輸入盤

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