『ピアノ&ア・マイクロフォン1983』プリンス(Album Review)
『ピアノ&ア・マイクロフォン1983』プリンス(Album Review)

 米ミネソタ州の自宅兼スタジオで亡くなったのが、2016年4月21日。プリンスの死から2年半が経ったと気づき、月日の過ぎる早さに驚かされるばかりだが、彼の音楽は今でも生き続けている。

 本作は、1983年に同ミネソタ州にあるホームスタジオでレコーディングされた、未発表曲集。「カセットテープに吹き込む」なんて、今の若手は想像もつかない……かもしれない。一般人でも、プロのような録音がPCで簡単にできてしまう時代だからね。しかし、ノイズや生々しい吐息など、アナログ音源だからこそ出せる良さもある。プリンスがまだ生きているような、身近に感じられる貴重な音源だ。

 カバーアートは、1982年~83年に行われた【1999ツアー】の際に、バックステージで撮影されたものだという。プリンスって、若い頃の方が貫禄あった(老けていた?)なぁ……。

 1978年にアルバム『フォー・ユー』でデビュー。今年はデビュー40周年のアニバーサリー・イヤーだ。翌79年の2ndアルバム『プリンス』からは、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高11位をマークした「アイ・ワナ・ビー・ユア・ラバー」が大ヒットし、殿下の変態っぷりが開花した3rdアルバム『ダーティ・マインド』(1980年)、ファンの間でも名高い良質なファンク&メロウの4th『コントラヴァーシー』(1981年)を経て、1982年に発表した『1999』(全米7位)でブレイクを果たす。

 『ピアノ&ア・マイクロフォン1983』に収録された音源は、その『1999』と、世界的スーパースターとなる1984年の『パープル・レイン』の間に録音されたもの。当時のライブでは披露しなかった、「ピアノの弾き語り」というのがファンの心を揺さぶるポイントだという。亡くしてまた、新しい発見があるとはね。

 1曲目の「17 デイズ」は、殿下プロデュースによるガールズ・グループ、ヴァニティ6に書いたもので、1984年のビルボード年間チャートを制した自身のシングル「ビートに抱かれて」のB面に収録された曲。表題曲よりも好きだというファンも多いが、シンセをかき鳴らす原曲のポップで華やかな印象はどこへ、こちらはジャジーな雰囲気を漂わせている。2曲目の代表曲「パープル・レイン」も、ドラマティックなロック・バラードではなく、ジャズに近い。ピアノのコード進行もそんな感じで、当初(元)はこんな感じだったんだ?と驚く方も多いのでは。3曲目の「ア・ケイス・オブ・ユー」はジョニ・ミッチェルのカバー(1971年)で、原曲を聴いたプリンスが感動して録音したものだそう。プリンス独自の解釈が、良い意味で基を打ち崩した。

 4曲目の「メアリー・ドント・ユー・ウィープ」は、死後初となるミュージック・ビデオが公開された曲。2015年に米メリーランド州で起きた警官による黒人殺害事件(フレディ・グレイ事件)に対しての訴え、銃社会の恐ろしさと悲惨さが生々しく描かれている。30年以上も前に録音された曲が、こんな形で復元するとは…感情的にシャウトする当時のプリンスに、何ともいえない感情がこみ上げる。同曲は、8月に公開されたスパイク・リーの映画『ブラッククランズマン』のエンド・ソングとして起用された。

 不屈の名盤『サイン・オブ・ザ・タイムズ』(1987年) に収録された「ストレンジ・リレーションシップ」が5曲目に収録されている。実際にリリースされたのは、4年後のことだったとはね。ミッド・テンポのファンキーなイメージはそのままに、比較的原曲に近い感じなのではないかな。シングル向きではないけど、キャリア5年目でこの曲を作ってしまう殿下、やっぱり凄い。録音前にリリースされた『1999』のラストを飾る「インターナショナル・ラヴァー」(6曲目)は、ライブで歌っている姿が目に浮かぶような仕上がり。

 以下3曲は未発表曲。「ウエンズデイ」は、大ヒット映画『パープルレイン』に出演した、ジル・ジョーンズが歌うためのトラックとして作られた曲だという。優しい奏とファルセットの良い曲だが、ちょっとプリンスらしからぬ感じ。「コールド・コーヒー&コケイン」は、マイケルを意識したシャウトや、ラップのような起伏の少ないフレーズが、まさにプリンス節炸裂。ファンキーなリズムをとる踏み足が、生録音っぽくていい。ラストの「ホワイ・ザ・バタフライズ」は、なんでこの曲が未発表だったのか?と言いたくなる渾身のバラード。デモのほうが凄みを感じさせる、なんてね……。

 メドレー形式になっているのは、生前行っていた【ピアノ&ア・マイクロフォン・ツアー】を意識したものにしたかったからだそう。そして、ピアノの弾き語りこそ、プリンスのキャリアの原点だから。このアルバム・スタイルが、数々の名曲を生み出したスタジオ風景なんだ。と思うと、ちょっと泣けてくる。ライナーノーツには、非公開だったスナップ写真なども掲載されている。

Text: 本家 一成