魂を揺さぶる麗しいインプレッションズのコーラス・ワーク 半世紀を超えるソウルフルな声の響きに黒人音楽のレガシーを振り返る“最初で最後”の夜
魂を揺さぶる麗しいインプレッションズのコーラス・ワーク 半世紀を超えるソウルフルな声の響きに黒人音楽のレガシーを振り返る“最初で最後”の夜

 色鮮やかに展開されるコーラス。そしてタイトにリレーされるリード。今宵、確かに僕は“歴史”を目撃した――。

 ゴスペルやドゥー・ワップに根差したスピリチュアルで麗しいコーラス・ワーク。「Keep On Pushing」「Amen」「People Get Ready」「We’re A Winner」「Choice Of Colors」「I’m So Proud」といった精神的・社会的なメッセージを携えた名曲の数々。ボブ・マーリィやロッド・スチュアート、山下達郎やポール・ウェラーなど多くのミュージャンに与えた強力なインパクト。そしてポップ・ミュージックの礎を築いた絶大な影響力。彼らが発信する音楽は、日々僕たちが口ずさんでいるヒット・ソングに溶け込んでいると言っても差し支えないだろう。

 そんなR&Bヴォーカル・グループ=インプレッションズのステージが実現した。1958年にスタートした彼らは今年で結成60周年。これまで歴代のメンバーだったカーティス・メイフィールド(84年)やリロイ・ハトソン(今年)の来日こそあったものの、グループ本体は初めて。しかも、結成時からのメンバーであるサム・グッデンと、前身のグループに参加しインプレッションズにも60年に加わったフレッド・キャッシュの2人に、33歳の新ファルセット・ヴォーカル=ジャーメイン・ピュリフォリーを加えた鉄壁のラインナップ。現在、サムが84歳、フレッドも77歳の高齢になり、日本でのステージは今回が「最初で最後」と明言している3人。文字通りプレシャスな“奇跡”のライブだ。

 3本の管楽器が華やかに鳴り、メロウなオルガンと軽快なギターが生命力溢れるリズムを刻み始める。その音に背中を押されるようにステージ脇の階段を降りてくる3人。シックなスリーピースに包んだ身体をスタンド・マイクの前に並べ、ミディアム・スロウのテンポに合わせてゆったりと声を重ねていく。まるで会話を楽しんでいるかのような掛け合いは、バリトン/テナー、アルト、ファルセットが立体的に絡み合いながら、会場の隅々まで温もりを広げていく。

 それにしても、何と懐が深いのだろう…。黒人コーラスのトラディションを今に継承するシカゴ・ソウルの武骨でロマンティックな響きに、気がつくと思わず聴き惚れている。ポジティヴなエネルギーと心地好い体温を感じさせる音楽性は、決して一朝一夕に築き上げられるものではない。まさにレガシー。今宵、それをリアルに体験したのだ。

 ストリート・コーナー・シンフォニーの伝統に則った身のこなしは、親近感を滲ませながらも気高い。磨き上げられたエンタテイメントの美学が凝縮されたステージング。観ているだけでワクワクしてくるのは、きっと僕だけではないはずだ。その証拠に、ステージ・フロアの人たちは上気した表情で手を叩き、足を鳴らしている。それは上階の席の人たちも同じ。会場に充満する高揚感が伝わってくる。

 冒頭に記した名曲が次々に歌い上げられていくが、そのどれもが鮮やかな色彩感に満ちていて、エターナルな生命を宿している。時を経て、時代を超えてもなお、瑞々しさに溢れた歌声。聴いている誰もが、そこに黒人音楽の「普遍性」というマジックを感じ取っているに違いない。そんな眩い時間がゆっくりと過ぎていく――。

 また、キャリアを重ねてきたからこその“深み”も。喜怒哀楽を凝縮したかのようなコクのある歌には汗も涙も染み込んでいるようで、心が激しく揺さぶられる。歌詞に込められた志は高く、想いはディープだ。

 中盤にはカーティスゆかりの曲がメドレーで演奏され、それを境に終盤に向けて躍動的なナンバーが立て続けに繰り出されていく。

 腕時計の長針が1周してライブが佳境に入り、ミラーボールが回りだすと同時に「みんな支度はできたかい?」とジャーメインが口ずさみ、「列車が来るよ」とフレッドが歌い継ぐ。そして「荷物はいらない。乗るだけでいい…」と麗しく響き合う3人の声。ジェフ・ベックとロッドによるカヴァーも記憶に残る名曲が、間違いなく目の前で歌われている…。

 ヴィンテージ感が滲む“様式”を着実に表現するバンドと、身体の内側から湧き上がってくるエモーションを発していくヴォーカルの、限りなく美しいコントラスト。ステージの上で展開されるこのコンビネイションこそが、最上のソウル・マナーだ。そんな濃密で、独自の美意識に溢れた80分を、僕は「歴史の目撃者」としてたっぷり味わった。

 最初で最後となる今回の来日ステージは、東京で明日の13日、大阪では週末の15日に2回ずつ予定されている。5月に実現したリロイ・ハトソン以上にミラクルなライブ。ソウルフルでふくよかな黒人コーラスを堪能できる、まさに貴重な公演。後悔することなきよう、ぜひ会場に足を運んで欲しい。For Your Precious Love!

◎公演情報
【インプレッションズ】
ビルボードライブ東京
2018年9月11日(火)& 13日(木)
1st Stage Open 17:30 Start 19:00
2nd Stage Open 20:45 Start 21:30

ビルボードライブ大阪
2018年9月15日(土)
1st Stage Open 15:30 Start 16:30
2nd Stage Open 18:30 Start 19:30

詳細:http://www.billboard-live.com/

Photo:Masanori Naruse

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。暑さが一段落して季節も落ち着いてきたここ数日。これからは豊かな土地で収穫された根菜やヘルシーなミートと一緒に、陽の光が溢れる南仏ローヌや地中海沿岸のスペイン=カタルーニャで育ったグルナッシュ(ガルナッチャ)種の赤ワインを楽しみたい。熟したベリーのようなアロマとスパイシーなニュアンスを感じさせながらも丸みのある舌ざわりは、しっかりした旨みが嬉しいオーガニック野菜や放牧牛などの肉質と好相性。嗜むほどに身体に元気をもらえるから、まさに“食欲の秋”にうってつけ。街中のワインセラーを探せば、グルメにもグルマンにも納得の1本がきっと見つかるはず。