『エジプト・ステーション』ポール・マッカートニー(Album Review)
『エジプト・ステーション』ポール・マッカートニー(Album Review)

 2013年にリリースした前作『ニュー』から5年振りにリリースされた、ポール・マッカートニーの新作『エジプト・ステーション』。 ザ・ビートルズ時代の作品を除くと、通算17作目のスタジオ・アルバムとなる。本作は、古巣キャピトル・レコーズに再移籍後初のアルバムで、カラフルなアート・ワークは、1988年にポール自身が描いたものだという。プロデュースは、アデル、シーア、ケリー・クラークソンなどの実力派女性シンガーから、ラッパーのケンドリック・ラマー、グラミー受賞シンガーのベックまで幅広く手掛ける売れっ子=グレッグ・カースティンが担当。若手を中心にプロデュースしてきた彼が、ポールのアルバムを手掛けるのは意外だった。

 それが吉と出たか、本作を聴いた往年のファンからは「天才は健在」、「ポールの良さが出た名盤」など絶賛の声が挙がっている。前作『ニュー』の出来には賛否が分かれただけに、喜びもひとしおだろう。ポールの才能もさることながら、グレッグ・カースティンの仕事っぷりがすばらしく、流行も取り入れつつ、名曲(名作)のニュアンスも組み込んだ傑作が並んでいる。「ファー・ユー」のみ、ワンリパブリックのライアン・テダーが手掛けたナンバーだが、この曲だけ浮いているということはなく、アルバムの流れにしっかり馴染んでいる。

 6月にリリースされた先行シングル「アイ・ドント・ノウ」は、ピアノのイントロがビートルズの某名曲を彷彿させるメロウ・チューン。「オープニング・ステーション」からこの曲の流れだけで、アルバムへの期待が高まったリスナーも多いだろう。両A面(懐かしい)として同日にリリースされたもう1曲の「カム・オン・トゥ・ミー」は、70年代のウイングス時代を彷彿させる、スタンダードなロック曲。良い意味で、どちらも定番のポールが楽しめる「期待を裏切らない」キャリアの集大成ともいえる仕上がりに。

 旅路のお供にしたいフォーク・ソング「ハッピー・ウィズ・ユー」、往年のファンが手を叩いて喜びそうなロック・チューン「フー・ケアズ」、ベース・ラインにニヤリとさせられる「ドミノズ」、「アイ・ドント・ノウ」に匹敵する美しいミディアム~バラード「ハンド・イン・ハンド」、60年代のレコード棚から取り出したような「ドゥ・イット・ナウ」、年齢を感じさせないシャウトをカマす「シーザー・ロック」。どれをとってもポール・マッカートニーではあるが、古臭さやマンネリなんて一切感じさせない。

 平和の意味について考えさせられる「ピープル・ウォント・ピース」、トランプ大統領をディスったドラマチックな展開の「ディスパイト・リピーティッド・ウォーニングス」、日本語で“イチバン!”と連呼する「バック・イン・ブラジル」など、歌詞の世界観も深い。「ステーションII 」で幕を閉じ、アンコールのように「ハント・ユー・ダウン/ネイキッド/C-リンク」が流れ始める、このエンディングも素晴らしい。音楽を聴く手段は、そのほとんどがストリーミングで、使い捨てのような時代になってしまったが、本作はLP時代にカムバックしたような、アルバムとしてまとまりのある仕上がりになっている。これも、様々な時代を駆け抜けてきたポールだからこそできる業。
 
 レジェンド=ポール・マッカートニー も御年76歳。声の衰えも隠せなくなり、「ポールもそろそろか…」なんてつぶやかれたりもしていたが、本作でその不安も解消されたことだろう。ボーカル、サウンドセンス、演奏、アートワーク、全てが完璧。アップテンポもバラードも、ポール本来のメロディーが戻ってきた。若さ溢れる……という作品ではないことは当然だが、あの頃の勢いも感じさせてくれる、エネルギーに溢れたアダルト・コンテンポラリー・アルバム。絶大なインパクトを誇る「目玉曲」はないが、ポールのアルバムに今さらそんなものを求めるファンもいないだろう。

Text: 本家 一成

◎リリース情報
アルバム『エジプト・ステーション』
2018/9/7 RELEASE
<CD [SHM-CD仕様]>
UICC-10040 / 2,600円(plus tax)
ボーナス・トラック2曲収録
<2LP [直輸入盤仕様]>
UIJC-90001/2 / 7,800円(plus tax)
<2LP [カラーLP] [直輸入盤仕様]>
PDJI-1041/2 / 8,600円(plus tax)
Universal Music Store限定商品
※LPは2018年9月21日 発売