『カミカゼ』 エミネム(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『カミカゼ』 エミネム(Album Review)

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『カミカゼ』 エミネム(Album Review)

『カミカゼ』 エミネム(Album Review)


 2018年8月31日にサプライズ・リリースされたエミネムの新作『カミカゼ』。本作は、2017年12月に発売された4年振りの復帰作『リバイバル』から8か月という短いスパンで発表された、自身10作目のスタジオ・アルバム。トータル・プロデュースは、もちろんドクター・ドレー。その他、カナダ出身のトラックメイカー=ボーイ・ワンダーや、マイク・ウィル・メイド・イット(ビヨンセ、ジェイ・Z、カニエ・ウェスト等)、英ロンドンを拠点とするプロデューサー/ミキサーのフレッド・ボールなど、売れっ子が参加している。

 戦闘機が墜落する音からはじまる、冒頭の「ザ・リンガー」は、米ブルックリン出身のフィーメール・ラッパー=ヤング・M.A.の「Ooouuu」(2016年)をサンプリングした、サウンド&スキルが超暴力的なナンバー。前作『リバイバル』のオープニングを飾った、ビヨンセをフィーチャーしたメロウ「ウォーク・オン・ウォーター」とはえらい違いだ。2016年11月に米サウスカロライナ州でコンテナに監禁された事件の、被害女性について歌ったフレーズが波紋を広げている。

 続く「グレイテスト」では、ケンドリック・ラマーの「ハンブル.」(2017年)と、プレイボーイ・カルティ&リル・ウージー・ヴァートによる「ウォーク・アップ・ライク・ディス」(2017年)の2曲がネタ使いされている。最新のラップ・ソングを起用したのは、現ヒップホップ・シーンへのイヤミも込めてか?というのも、本作には「今のラッパーはさ」と説教じみた(?)内容の曲がいくつか収録されているからだ。それだけに、彼らのヒット曲をサンプリングするというのは、皮肉も込められているのではないか、と……。

 一方、タイトル曲「カミカゼ」には、LL・クール・Jのクラシック・ナンバー「アイム・バッド」(1987年)が使われていて、横向きの戦闘機が描かれたジャケット・アートは、ビースティ・ボーイズのデビュー・アルバム『ライセンス・トゥ・イル』(1986年)からインスピレーションを受けているとのこと。自身が影響を受けた世代へのリスペクトも(おそらく)忘れない。

 サンプリング・ソースとして話題になっているのが、カナダ出身の女性シンガーソングライター=ジェシー・レイエズをフューチャーした「グッド・ガイ」。この曲には、日本のアニメ『東京喰種トーキョーグール』の挿入歌として高い人気を誇る「グラッシー・スカイ」という曲が使われている。原曲の幻想的な世界観はどこへやら?、といった感じだが、遠くから聴こえる歌声が、良いアクセントにはなっている。ジェシー・レイエズについては、もっと上手い使い方があったのでは、という気もするが、前曲「ナイス・ガイ」では、彼女のねっとりとしたボーカルがエミネムのライムに絡み合い、イイ味を出している。

 衰えを感じさせないお得意の超高速ラップを披露した「ラッキー・ユー」には、米マサチューセッツ州出身のラッパー、ジョイナー・ルーカスが、エミネムに負けずとも劣らないフロウを炸裂させている。ビットコインについて歌われた「ノット・アライク」には、バッド・ミーツ・イーヴィルとしてコンビを組んだロイス・ダ・ファイブ・ナインがフィーチャリング・アーティストとして参加した。ゲスト・クレジットはややマイナーではあるが、エミネムの作品をより際立てる奇才が選出されている。

 本作では、前述の若手ラッパーたちに対するディス以外にも、前作『リバイバル』を酷評した音楽評論家やメディアへの毒を吐きまくっているエミネム。初期の頃のあの勢いが戻ってきたようだ。御年45歳(10月で46歳)だというのに、何とも元気なこと……。9月4日に公開された「フォール」のミュージック・ビデオでは、その『リバイバル』を批判したネットのバッシングを、黒い煙のような人影として描き、CDケースを踏みつけるシーンも登場する。アルバムの反応の悪さが、相当悔しかったのだろう。本作についても、既に賛否両論のコメントが殺到しているが、これらの反響も次作に反映させるつもりだろうか……。

 ラストを締めくくるのは、日本では2018年11月2日に公開予定のマーベル映画『ヴェノム』のテーマ曲として制作された同名曲。映画の設定を忠実に再現した傑作で、リスナーの間で高い評価を得ている。自身のツイッターでは、「Venom」のEの文字がエミネムのロゴ“逆E”に変化する映像を投稿していて、映画とのコラボレーションを示唆している。

 前作がキャリアの集大成なら、本作は新章の幕開け。何か突拍子もないことをヤラかしてくれそうな予感を感じさせる、エミネムらしさ全開のアルバムだ。若い世代には「?」と首をかしげてしまう一面もあるが、「マイ・ネーム・イズ」(1999年)に衝撃を受けた世代にとっては、「これぞエミネム」と唸る作品に仕上がったのではないだろうか。

 本作は、9月9日に発表される米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で、No.1デビューする可能性が極めて高いと発表されたばかり。実現すれば、2000年に発表した3rdアルバム『ザ・マーシャル・マザーズLP 』から8作連続、サウンドトラック『8マイル』(2002年)とベスト盤『カーテン・コール。~ザ・ヒッツ』(2005年)を含めると、通算10作目の全米首位獲得を果たすことになる。

Text: 本家 一成


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