『クイーン』ニッキー・ミナージュ(Album Review)
『クイーン』ニッキー・ミナージュ(Album Review)

 「アナコンダ」や「オンリー」などの大ヒットを輩出した前昨『ザ・ピンクプリント』(2014年)からおよそ4年振り、4作目のスタジオ・アルバムとなる本作は、自身の立ち位置を示した『クイーン』 というタイトル通り、女王の貫録に相応しい充実した内容のアルバムに仕上がった。アートワークも、古代エジプト女王・クレオパトラにインスパイアされたものだという。

 本作からは、4月10日にリリースした先行シングル「チュン・リー」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高10位をマークし、通算16曲目のTOP10入りを果たした。同曲はニッキーとJ.リードの共作で、南部のレジェンド・ラッパー、スカーフェイスの「ザ・バッド・ガイ」(1983年)がサンプリングされた、重圧感のあるドープなトラックが超クール。ご存知、人気ゲーム『ストリートファイター』の人気キャラクターであるチュン・リー(春麗) に触発されているもので、この曲がタイトルである“(バトル)クイーン”にも繋がっている……かもしれない。なお、「チュン・リー」と同時にリリースされた「バービー・ティングズ」は、収録を見送られた。

 2曲目のシングルとして6月にリリースした「ベッド」は、アリアナ・グランデとのコラボ・チューン。ドレイクやブルーノ・マーズなど、トップ・アーティストを手掛けるスパ・ダップスによるプロデュースで、アリアナの3rdアルバム『デンジャラス・ウーマン』(2016年)から大ヒットした、両者のコラボ・チューン「サイド・トゥ・サイド」(全米4位)の続編的な、ポップとヒップホップをブレンドしたナンバーだ。8月17日にリリースされるアリアナの新作『スウィートナー』にも、ニッキーとのコラボ曲「ザ・ライト・イズ・カミング」という曲が収録される。

 3曲目のシングル候補として挙がっているのが、LLクール・Jやリル・キムなど、90年代を代表するヒップホップ・アーティストを手掛けてきたラッシャッド・スミスによるプロデュース曲「バービー・ドリームズ」。この曲には、ノトーリアス・B.I.G.のクラシック・ナンバー「ジャスト・プレイング」(1994年)がバックトラックに使われていて、90年代の音を蘇らせた古典的なサウンドが、逆に斬新さを生み出している。ここ最近は、ドレイクやトラヴィス・スコットなど、人気ラッパーたちが90年代の曲をサンプリングし、リバイバルさせている傾向(流行)もみられる。90年代といえば、ニッキーもリスペクトするフィーメール・ラッパーの代表格=フォクシー・ブラウンが「ココ・シャネル」でタッグを組んだ。

 サンプリング・ソースでは、リル・ウェインとのコラボ曲「リッチ・セックス」で、自身がゲストとして参加したケイティ・ペリーの「スウィッシュ・スウィッシュ」(2017年)の歌詞の一部が引用されている。「リッチ・セックス」はメトロ・ブーミンによるプロデュースで、その他にもニッキーの代表曲「スーパー・ベース」(2010年)を手掛けたケイン・ビーツによる「ニップ・タック」や 、ハイトーン・ボイスで優しく歌うメロウ・チューン「カム・シー・アバウト・ミー」はサーキットが、クランク時代を彷彿させる「グッド・フォーム」はマイク・ウィル・メイド・イットが手掛けていたりと、ヒットメイカーたちが多数参加している。現在大ヒットしている、シックスナインの「FEFE」にニッキーとゲスト参加したマーダ・ビーツは、この時期にピッタリなサマー・チューン「マイアミ」をプロデュース。

 「ソウト・アイ・ニュー・ユー」では、現R&Bシーンのトップに君臨するザ・ウィークエンドのボーカルがフィーチャーされたオルタナティブR&Bで、ニッキーのパートもラップではなく、ボーカルをメインとしている。この曲は、失恋後の傷心を歌ったナンバーで、一部の視聴者からウィークエンドの元恋人、セレーナ・ゴメスについて歌ったものでは?と予想がされているが、真相は不明。話題性、曲のクオリティ含め、本作の中でも1、2位を争う傑作ではないだろうか。ラッパーのフューチャーがボーカルを担当した「サー」も、今っぽくて人気が高そう。

 ラテンやダンスホールのリズムを取り入れた、オープニング・ナンバーの「ガンジャ・バーンズ」や、スウェイ・リーの気だるいボーカルによるチルアウト系のトラップ・ソング「チュン・スウェイ」、ロンドン出身のR&Bシンガー=ラビリンスのファルセットが映えるフックと、エミネムの超高速ラップが炸裂する、ロック調の「マジェスティ」、ボーカルとラップ・パートを一人二役、見事に使い分けたヒップホップ・トラック「ハード・ホワイト」、エキゾチックな“ニッキー節全開”の「LLC」など、バラエティも豊かで、ヒップホップもR&Bもポップ・ソングも、バランス良く収録されている。全体をまとめると、ポップ要素が強かった2nd『ロマン・リローデッド』(2012年)と、ラップ曲をメインとした3rd『ザ・ピンクプリント』の中間といったところか。マニア向けではないが、非常に聴きやすく、ヒットが狙えそうな作品ともいえる。

 今年初頭まで交際が囁かれていた、ラッパーのナズをフィーチャーした「ソーリー」は収録されなかったが、アルバムとは別に公開されている。

Text: 本家 一成