チャットモンチー主催イベントDAY1に奥田民生/ベボベら登場、高橋久美子とも「シャングリラ」
チャットモンチー主催イベントDAY1に奥田民生/ベボベら登場、高橋久美子とも「シャングリラ」

 チャットモンチーが地元・徳島県で開催した【チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018~みな、おいでなしてよ!~】DAY1のオフィシャル・レポートが到着した。
ライブ写真(全19枚)

 チャットモンチーが主催するイベント、“こなそんフェス”こと【チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018~みな、おいでなしてよ!~】が2018年7月21日(土)~22日(日)の2日間に渡り、二人の地元、徳島県に所在する四国最大級の多目的コンベンション施設・アスティとくしまにて行なわれた。同フェスの開催は約2年ぶり、2回目。そして今年、その活動の完結を決めたチャットモンチーにとっては、これが最後のステージとなる。7月4日(水)には東京・日本武道館にてワンマンライブのラストを見事に飾った彼女たちがフィナーレの舞台に“こなそんフェス”を選んだのは、涙ではなく笑顔でそのときを迎えたい、そうした想いもあっただろう。二人の想いに応えるべく駆けつけた出演陣の顔ぶれも若手の注目バンドからシーンの重鎮アーティストまでと幅広く、幕間を盛り上げるお笑い芸人勢もよりすぐりの精鋭揃い、と今回もそうそうたるもの。また、両日ともに好天にも恵まれ、終始晴れやかなムードに包まれた、実に“チャットモンチー愛”に満ちた2日間となった。
 
♪踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん こなそんそん!

 13時開演の5分前に阿波おどりのお囃子に乗った二人の歌が場内に響き渡った。このフェスのテーマソングとも言うべきこのジングルに、2年前の興奮が瞬く間に甦る。続く「スタート!」の声が合図となって、初日のステージに登場した橋本絵莉子と福岡晃子をオーディエンスの大歓声が迎えた。

「やっほー! 来てくれてありがとう! みんな、めっちゃ暑かったって顔しとるなぁ」
「大丈夫~?」

 手にした“かもし連”のうちわで客席に風を送る二人の姿に場内が沸く。

「今回はチャットモンチーの完結ということで、最後はやっぱり徳島でお祭りをやりたいと“こなそんフェス”を開催させていただくことになりました」
「無事に開催できてよかったです! 2日間、結構な長丁場になるので、みなさん体調に気をつけて楽しんでください」

 主催者らしくそれぞれに挨拶をしたあとは、本日のスペシャルMCとして吉本新喜劇の座長、小籔千豊を5,000人の“こやびん”コールで呼び込んで3人で公演中の注意事項をアナウンス。「今日はNOしんみりで。みなさん、めちゃくちゃ楽しんでください」と呼びかけつつ、「ただ、僕だけは悲しいです」とオトす小籔に「え、そうなん?」と無邪気に目を丸くする二人が面白い。独特のグルーブ感を生む3人の掛け合いに会場はすっかり“こなそん色”に染め上げられた。

 そんな初日の先陣を切ったのはシュノーケル、オープナーとなった曲は「奇跡」だ。サポートメンバーも交えた力強いポップサウンドに西村晋弥(Vo.& G.)の雄々しくさえある歌声が場内にクラップの渦を巻き起こしたかと思えば、いっそうロックかつダンサブルに振り切れた「NewPOP」でまだまだタフに進化を続けるバンドの現在地を堂々見せつける。差し挟まれるKABA_3(B.)と西村のラップ、野太い“NEW POP”コールなど今の彼らがとても自由に音楽を楽しんでいるのが伝わってくるかのようだ。チャットモンチーとは年齢も近く、同じく同世代バンドのBase Ball Bearとの3組で2006?2008年の夏には“若若男女サマーツアー”を開催していた思い出に触れて「僕らシュノーケルの音楽人生にとっていちばん楽しかった思い出」と語る西村。「最後の開催からちょうど10年、(その間に)3組ともいろんなことがあったけど、今日また同じステージを踏める機会をチャットモンチーが用意してくれました。みんな、それぞれの場所で生まれて、今こうして同じ時間と空間にいるっていうのは理由があるんじゃないか、という歌を」と告げると「理由」に突入。西村の言った“いろんなこと”には彼らの4年に渡る活動休止も含まれているだろう。それを乗り越え、朗々と鳴らされる今のシュノーケルの音がオーディエンスの胸を熱くした。

 無音のステージに現われるや、刹那の静寂を引き裂くギターノイズでのっけからオーディエンスを圧倒したyonige。牛丸ありさ(Vo.& G.)と、ごっきん(B.)の二人による今もっとも期待の急先鋒バンドだ。むせ返る轟音とともに歌詞に綴られた茫洋として身も蓋もない愛が胸苦しく迫る「最愛の恋人たち」のなんと救いようもなく、美しいことか。続く「our time city」では一転、青々しい疾走感がどこか脱力した牛丸のボーカルと相俟って不思議な躍動を場内にもたらす。「こなそんフェスに出させてもらえてとても光栄です……何から話したらいいかわからんな」と牛丸が言えば「半端やないね。うちら、yonigeを始める全然前からチャットモンチーという養分を吸いに吸いまくってブクブク、ムキムキに太ったバンドなんでめちゃめちゃ嬉しい」と独特の表現で喜びを爆発させるごっきん。牛丸は小学1年生(!)、ごっきんは高校生の頃からチャットモンチーを聴いてきたのだという。その養分、DNAはたしかに次の世代に受け継がれ、そうしてまた新しい音楽に繋がっていくのだということを見事に証明したyonige。鬱屈を抱えながらも伸びやかな潔さを宿した「さよならプリズナー」で、ラストは爽快な余韻を残した。

 演奏の幕間を盛り上げるのはお笑い芸人たちの豊かな個性と確かな手腕だ。野性爆弾とガリットチュウ福島はシュール過ぎるコントで悲鳴と爆笑の交錯するスリリングなステージを展開。ミルフィーユのごとく積み上げられたネタがことごとくオーディエンスのツボをとらえて離さない南海キャンディーズの巧みな漫才に、音楽イベントというシチュエーションもしっかり活かしたミキの兄弟漫才(弟・亜生の繰り出したメロイックサインがまた秀逸)という充実のラインナップがイベントに緩急のめりはりをつけて引き締めるのだ。

 さて、三番手を担うは“こなそんフェス”2回目の参戦となるBase Ball Bear、ただし今回は3ピースバンドとしての登場だ。実は前回の出演がちょうど3ピースになったタイミングの1本目のライブだったという。だが、盟友チャットモンチーの初主宰イベントに水を差したくないという想いから急遽、the telephonesの石毛輝をサポートに擁して参加したのだ。2年ぶりの“こなそんフェス”にBase Ball Bearが轟かせる1曲目は「BREEEEZE GIRL」。ソリッドにブラッシュアップされたアンサンブルが客席に熱狂をもたらし、場内一体のシンガロングが昂揚に拍車をかけていく。3人で出しているとは思えないぶ厚く硬質なサウンドと強靭なビートが絡んでフロアを踊らせる「祭りのあと」のキラーチューンっぷりは健在、むしろ殺傷力は倍増したのではないか。その後のMCで「どういう気持ちで今日を迎えるのか想像できなかった」と言い、「正直、俺、泣くのかなと思ってけど、でも楽屋に入ったらチャットモンチーからのメッセージがあって“泣かないでねネ?”って書いてあって」と苦笑混じりに明かした小出。今日はチャットモンチーのお祭りだから、みんなと一緒に楽しんで二人の完結と新たな旅立ちを祝いたい、そして今、自分たちは3ピースがとても楽しいということ、チャットモンチーが二人になったときに続けることの大切さを傍で見ていて改めて知ったからこそ“俺らはぜってぇ辞めねえからな!”と頼もしく宣言。デビュー曲「GIRL FRIEND」、3ピースになる決意を歌った「逆バタフライ・エフェクト」と立て続けに演奏された2曲にもその意気がみなぎっていた。

 「イェイ、徳島! 始まるよ。いくよ、チャットモンチー!」、中納良恵(Vo.)の艶やかな第一声がほどよくほぐれた空間に快い喝を入れる。前半戦のトリを務めるのはEGO-WRAPPIN'だった。森雅樹(G.)の他、ベース、ドラム、キーボード、サックス、トランペットという大所帯バンドが奏でる豊潤なサウンドの海を泳いで渡るかのように歌声を自在に駆使してオーディエンスを煽る中納。ジャズとムード歌謡を融合させて独自のサウンドに織り上げたEGO-WRAPPIN'初期の色合いが今なお新鮮な「PARANOIA」、タイトルにも示されている通り、ミディアムテンポのスカのリズムが心地好く客席を揺らした最新曲「A Little Dance SKA」、よりスローかつムーディーに歌い上げられる「a love song」と瞬く間にオーディエンスを恍惚へと導いていく。「徳島、お邪魔してます! えっちゃんとあっこちゃんは今また新しいスタートラインに立っているわけですけど、今日は勇姿を見届けたいな、と。私たちもステージを温める程度ですが、しばしお付き合いください」という中納の挨拶に続いて披露された「BRAND NEW DAY」、性急に織り上げられてゆく音世界、パワフルに繰り出されるメッセージは二人の新たなる日々に贈られたはなむけでもあっただろう。「GO ACTION」では中納がフロアに降り立ち、最前列の観客とハイタッチをして回る一幕もあるなど、徹頭徹尾、観る者を惹きつけて離さない。

 1時間の休憩を挟んでの後半戦、昭和の子供向け教育番組『カリキュラマシーン』のテーマソング(現在放送中の雑学番組『チコちゃんに叱られる!』のオープニングテーマにも使用)をSEに奥田民生が現われた。ステージ中央に鎮座するソファをぐるりと囲むようにして位置につくのは奥田民生のソロではすっかりお馴染みのバンド、MTR&Yだ。下手側にはサボテンの置物まで据えられ、奥田はその隣でギターを肩に掛ける(実のところソファもサボテンも奥田の終了したばかりのツアーセットのアイテムだったりする)。なんとも奥田らしい登場に大喜びのオーディエンスだが、反応に先回りするかのように「そうは見えないかもしれないですけど、張り切ってやります!」と奥田が告げるや、客席はいっそうの歓声に沸き返った。自身のバンドのことをそのまま歌にした痛快なロックンロールナンバー「MTRY」から「イージュー★ライダー」、「エンジン」と、とことん肩の力が抜けていながらロックのど真ん中をぶち抜いた迫力のサウンドが澱みなく鳴らされていく様は圧巻のひと言。「はい、徳島?」と促されれば客席は抗う術もなく大合唱、完全に彼の手のひらの上だ。わざとしゃがれ声で歌うため、曰く「あんまりやると歌手生命が短くなってしまう」曲、「サケとブルース」では歌詞の最後の一節を“俺はブルースを歌うのさ こなそんで~”に替えるという粋な演出も。さりげない計らいに事務所の後輩への奥田の心情を垣間見る思いがした。

 初日がスタートしてからすでに6時間半が過ぎた。いよいよライブアクトの大トリ、チャットモンチーのステージだ。

「みんな、ありがとう! 元気ですか~!!」
 
 出てくるなり、最高潮のテンションで呼びかける福岡に「元気~!!!!!」と負けず大声で応えるオーディエンス。

「初日、ヤバすぎひん? ずっと袖で見てたんですけど、たまらん。そんで、みんなの喜んどる顔がようわかった。最高やね。……えっちゃん、まだほとんどしゃべってないけど、どうなん?」
「もうね、しゃべることがあんまりないかも」
「それを13年、通してきましたね」
「なのにいつもありがとうございます」

 チャットモンチーならではの緩いやり取りに場内は大爆笑。まだ初日だからだろうか、まるで終わりを感じさせない。そんな二人が最初に演奏したのは地元のラジオ局エフエム徳島のためにチャットモンチーが作ったジングル「きっきょん」だった。わずか10秒ほどの短さながらライブでは初披露となるレア曲に、客席が盛り上がらないわけがない。しかも“こなそんフェス”のために2番を作ってきたというから、やんやの大騒ぎ。得意満面で歌うは「やんりょん」、「きっきょん」が“聞いてる”の徳島弁ならこちらは“やってる”、つまり前者はエフエム徳島を聞いてるよ、後者は“こなそんフェス”をやってるよ、がその大意だ。いっそうゆるりとほぐれたところで、ここからが本番。見れば二人の後ろにはドラムセットが用意されており、どうやら今回はチャットモンチーのオリジナルスタイルである3ピース編成でライブを行なうらしいことが伺える。そうして本日のスペシャルMC、小籔千豊は最初のドラマーに呼び込まれ、「風吹けば恋」「真夜中遊園地」の2曲を演奏。「風吹けば恋」は前回の“こなそんフェス”でも同じメンバーで披露して喝采を浴びたが、さらに進化した一体感あるアンサンブルには目をみはらずにいられない。だが興奮はこれだけに留まらず、次には奥田民生がドラマーとして再登場。徳島県民にはおなじみのお祭りのテーマソング「阿波の狸」に続き、奥田プロデュースによる「コンビニエンスハネムーン」をまさかこの3人の演奏で聴ける日が来ようとは。その後もチャットモンチーのデビュー曲「ハナノユメ」をシュノーケルの山田雅人(Dr.)、「恋の煙」はBase Ball Bearの堀之内大介(Dr.)と豪華な共演が続き、最後は“ご存知! 若若男女オールスターズ”としてシュノーケル、Base Ball Bear、チャットモンチーが一堂に会して「今夜はブギー・バック」のカバーまで。しかしながらまだ特大のサプライズが残されていた。「ちょっと友達を呼んでくる」とステージ袖に消えた小出がチャットモンチーの元ドラマー、高橋久美子を連れてきたのだ。しかも3バンド分設置されたドラムセットの真ん中は、事務所の倉庫に眠っていた高橋のものだ。高橋が踏み鳴らす四つ打ちのキックから始まり、福岡のベース、橋本のギター、さらにシュノーケル、Base Ball Bearの演奏が重なって銀テープが炸裂する。ここが徳島で、“こなそんフェス”で、若若男女メンバーが集ったからこそ実現した夢の「シャングリラ」。気づけば3バンドとも3ピースなのも奇跡みたいだ。

 最高の初日は“こなそんフェス”のお楽しみ、阿波おどりで総仕上げとなった。徳島でも屈指の有名連(連とは踊りのグループの名称)、蜂須賀連の目の覚めるような演舞を鑑賞したあとは、客席を練り歩く、チャットモンチー率いる“かもし連”とともに場内の全員が“踊る阿呆”と化す幸せ。「やっとさー」と高らかに叫ぶ橋本、福岡の掛け声に「やっと、やっとー」と5,000人分の声がこだまして、2日目に最高のバトンを渡した。

TEXT:本間夕子
PHOTO:古溪一道(1枚目~12枚目)/ 上山陽介(13枚目~(19枚目)