大学の教室は小宇宙【世界音楽放浪記 vol.04】
大学の教室は小宇宙【世界音楽放浪記 vol.04】

2016年から、大学で教鞭を執っている。
私は高校時代、クラスで成績がビリという大変な落ちこぼれだった。
アウトロー、見逃せばボール。
そんな人生を送ってきた私が大学の先生を務めるのだから、人生は不思議なものだ。

最初に、慶應義塾大学文学部で「現代芸術」という講座を、1年間担当した。
昨今、音楽を取り巻く状況についての議論は盛んに行われている。
そういうことを教えるのなら、私より適任の方は数多くいる。
私は、学生と共に、日本でクリエイトされている「音楽そのもの」についての考察をしたいと考えた。
レヴィ=ストロースの構造主義をはじめ、さまざまな思想や理論を音楽へと援用した。
やがて私は、音楽が生まれ、歌われ、奏でられている日本各地の「音楽の現場」でフィールドワークするようになり、そこで体感したことを教室に持ち帰るようになった。
講義は、時空を超えた音楽が飛び交う場へと変わっていった。

一年限りと考えていた私に、翌2017年、実に4つの大学から、半期ずつの講師依頼が届いた。
明治大学国際日本学部「クリエータービジネス論」。
武蔵大学社会学部「音楽プロデュース論」。
上智大学グローバル教育センター「グローバルメディア実践プログラム」。
関西大学社会学部「メディア産業論」。

共通して教えているのは、ファクトベースで考えるということだ。
思い込みを排し、データを活用し、インテリジェンスを導き出す。
教壇に立っている時に私自身が真理に気づくことも、一度や二度ではない。
恐らく、それまで全く使っていなかった脳の部位が、その瞬間に覚醒したのだろう。
いまでは大学の暦が体に染みつき、試験の季節が近づくと、クラスとの別れが寂しく思えてくる。

大学を卒業する時、実は、研究者の道に進むことも選択肢の1つとして考えていた。
人生はアナログ時計のように繋がり、グルグルと回っている。
私が大学の教壇に立つのは、まるで、渋谷から恵比寿に行くのに、外回りに乗ってしまったようなことなのかもしれない。
時間は要したが、私がいるべき場所の1つに、ようやく到着した。そのように思っている。
今日も、7冊の本を並行して読みながら、次の講義のプランを練っている。Text:原田悦志

原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。