『NASIR』  ナズ(Album Review)
『NASIR』 ナズ(Album Review)

 5月25日にプシャ・Tの『Daytona』、6月1日に8thアルバム『Ye』、そして6月8日にはキッド・カディとのユニット“キッズ・シー・ゴースツ”として『Kids See Ghosts』をリリースしたカニエ・ウェストが、予告通り、自身のプロデュースによるナズ(Nas)の新作『NASIR』を6月15日に発表した。

 ニューヨーク出身、1973年生まれの44歳。同期で同じ東海岸の代表格=ジェイ・Zと比べると知名度は落ちるが、ラップスキルやリリックのすばらしさなど、コアなヒップホップ・ファンからの支持は圧倒的に厚いナズ。捨て曲いっさいナシのイースト・クラシックス『Illmatic』(1994年)や、2012年にNo,1をマークした完璧過ぎる復帰作『Life Is Good』など、アルバム個々のクオリティも高く、“レジェンド・ラッパー”と謳われるのも納得。

 本作『NASIR』は、その名盤『Life Is Good』からおよそ6年振りとなる新作。カニエが連続リリースした前3作同様、米ワイオミング州のジャクソンホールで制作され、7曲とコンパクトにまとめたアルバム構成も同じ。プロデューサーには、もちろんマイク・ディーンも参加している。

 冒頭の「Not for Radio」は、90年代のヒップホップ・シーンを共に盛り上げたパフ・ダディ(ディディ)と、カニエの『Ye』にも参加した、ニュージャージー州出身の若手ラッパー=070 Shake(オーセヴンオー・シェイク)がゲストとして参加した、アルバムの幕開けに相応しいゴージャスな90'sヒップホップ。バックで流れているのは、1990年に公開された映画『レッド・オクトーバーを追え!』のテーマ曲で、見事サウンドに溶け合っている。プロデューサーには、カシミア・キャットとベニー・ブランコの名前も。

 カニエ自身がフューチャリング・アーティストとして参加した、2曲目の「Cops Shot the Kid」には、スリック・リックのクラシック・ナンバー「Children's Story」(1988年)が起用されている。ゴールデンエイジ・ヒップホップ的サウンドが懐かしく、ナズ世代にはハマる1曲かも。何度も繰り返されるタイトルコールが、洗脳っぽく若干コワイが…

 ザ・ドリームがゲスト参加した「Adam and Eve」には、イランのサイケデリック・アーティスト=Kourosh Yaghmaeiの「Gole Yakh」という曲が使われている。同曲は、前述の『キッズ・シー・ゴースツ』でも活躍したプレイン・パットと、オハイオ出身のエレクトロニック・ミュージシャン=エヴァン・マストがプロデューサーとして参加。“まんま使い”のレトロなサウンドに、ナズのスキルフルなラップが映える。

 インドのミュージシャン、R. D. Burmanの「Dance Music」をネタ使いしたワールド・ミュージック風の「Bonjour」も、カニエの音楽マニアっぷりが炸裂した好曲 。ゲストやサンプリングソースはないが、「White Label」やラストのメロウ・チューン「Simple Things」も、ナズの良さが生かされた東海岸らしいナンバーだ。

 子供たちが並んで映るモノクロのカバー・アートは、メアリー・エレン・マークという写真家が1980年にテキサス州で撮影したものだという。芸術家のカニエらしいアイデアだ。ちなみに、タイトルの『NASIR』とは、ナズの本名「ナシアー・ビン・オル・ダラ・ジョーンズ」から文字ったもの。小粒ではあるが、自身の名前を冠したアルバムに相応しい、すばらしいアルバムに仕上がった、と言っていいだろう。

Text:本家 一成

◎リリース情報
『NASIR』
ナズ(Nas)
2018/06/15 RELEASE