<ライブレポート>湯木慧ワンマン・ライブ【水中花】スペシャル・バンドセット
<ライブレポート>湯木慧ワンマン・ライブ【水中花】スペシャル・バンドセット

 若干19歳にして音楽や絵画、映像から装飾まで、あらゆる創作をこなす女性シンガーソングライター、湯木慧(ゆきあきら)によるスペシャル・バンドセット・ワンマン【水中花】が2018年3月23日、東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて開催された。
湯木慧 ライブ写真(全6枚)

 学生が有り余る活力を部活や娯楽にぶつけるように、昨年春に高校を卒業して多感な青春期に一区切りつけた湯木が、しかしいまだ溢れ出る創作意欲をぎゅっと詰め込んだ、そんな一夜だった。会場を華やかに彩ったのは、講師に師事したというジャイアント・フラワーをはじめとする装飾の数々。またバンド・メンバーには、湯木本人の人脈から招かれたストリングス含む7名のミュージシャンが集結した。映像の編集も自身が担当したという。自身最大規模の会場で行われたこの【水中花】は、彼女にとって初のフルバンド公演である以上に、そのマルチな才能が纏め上げられ、一つの完成形として結実した初めての日だったのかもしれない。

 全18曲、約2時間のセットの中でそのポテンシャルが遺憾無く発揮された本公演は、言うなれば彼女の現時点での集大成的作品であり、幾度となく歌い上げられてきたのだろう未流通盤収録の「傷口」は、バンド・サウンドに支えられた堂々たるパフォーマンス。続く「迷想」では、ウッド・ベースとストリングスがスリリングな絡みを見せ、シリアスな流れを汲むように「碧に染めてゆくだけ」では、迫真の歌声が響き渡る。緩急のつけ方や間の取り方等、スペシャル・バンド編成ならではの生感がありつつ、しかしそのアンサンブルをオーガナイズしていたのは、やはり湯木の表情豊かな歌声だ。普段の弾き語りライブでは彼女のソングライターとしての才能が顕著だが、こうしてサウンドの全体像を印象づけるヴォーカルの説得力は、今回のフルバンド公演の発見の一つだった。

 どうやら機材トラブルがあったらしい「アルストロメリア」でも、一瞬戸惑いを見せつつ、すぐに調整するモードに切り替わった機転の良さにも、彼女のシンガー、パフォーマーとしての成長が表れている。軽やかなストロークでハンズクラップ、コール&レスポンスを誘った「涙スキップ」や「魔法の言葉」では、序盤の職人気質から一転、ポップで親しみやすい一面もアピールしていた。

 水がキーワードとして据えられた本公演の目玉的演出となったのが、水と絵の具を使い、スクリーンに流動的でカラフルな映像を投影するリキッドライティングだ。「万華鏡」では色鮮やかに変化していく模様を描き出し、緑の絵具と細やかな気泡が「網状脈」を見事に再現する。ペインターのハラタアツシもまた、湯木の熱烈オファーに応え、この特別な一夜を作り出したアーティストの一人なのだ。

 最新両A面シングル「嘘のあと」と「チャイム」はオーガニックなアコースティック・ナンバーであり、続く「74億の世界」「記憶」は弾き語りでの演奏で、様々な趣向が凝らされたこのフルバンド公演の中では、繊細な歌声をじっくり聴かせるチルタイムのセクションだ。白いアルストロメリアを模したジャイアント・フラワーを手に取り歌った「五線譜の花」の後は、フォークロア・バンド、高山病ハイランダーズのバグパイプ吹きであるAkiとともに「影」「流れない涙」へ。どちらの曲も迫真の歌声に思わずハッとさせられる強いメッセージ性を携えた楽曲だ。

 ここまで完成度の高いコンセプト・ライブを成功させながら、ショーの最中にも現在進行形の成長を感じさせるポテンシャルの底深さ。年齢にしては達観した思想を持ってはいたとしても、いまだ青さを残すからこそ将来性が計り知れない。アンコールで披露された「ハートレス」と「一期一会」は、子供でも大人でもない、狭間の地点にいる彼女にしか描けない人生観や死生観が強く宿ったエンディングだった。

Text by Takuto Ueda

<セットリスト>
01. 傷口
02. 迷想
03. 碧に染めてゆくだけ
04. アルストロメリア
05. 涙スキップ
06. 魔法の言葉
07. 万華鏡
08. 網状脈
09. 嘘のあと
10. チャイム
11. 74億の世界
12. 記憶
13. 五線譜の花
14. 影
15. 流れない涙
16. 存在証明
17. ハートレス
18. 一期一会

◎公演情報
【水中花】
2018年3月23日(金)
東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE