<ライブレポート>【LFJ2018】中世欧州の楽器と歌で、古くて新しい世界への旅を 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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<ライブレポート>【LFJ2018】中世欧州の楽器と歌で、古くて新しい世界への旅を

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<ライブレポート>【LFJ2018】中世欧州の楽器と歌で、古くて新しい世界への旅を

<ライブレポート>【LFJ2018】中世欧州の楽器と歌で、古くて新しい世界への旅を


 フランス発のクラシック音楽フェス【ラ・フォル・ジュルネTOKYO】。“新しい世界”をテーマに掲げた2018年は、欧州随一の中世音楽集団アンサンブル・オブシディエンヌも登場した。
【LFJ2018】写真(全3枚)

 クラシック音楽の世界でも、中世からルネサンスにかけての音楽はかなり特殊な存在だ。おおまかにはピアノ普及以前の音楽を総称的にさすことの多い「古楽」というワードが最もしっくりくる音楽領域でもある。クラシック界隈でも別扱い、特別枠になりやすい。

 多くの場合は“歌”ありき、演奏者はたいてい数人だけ。「室内楽曲」「管弦楽曲」「声楽曲」など後世のクラシック音楽における基本的なカテゴリー分けは全く通用しない。どの曲もピアノの鍵盤には落とし込めない独特の音階で組み立てられているし、クラシックのオーケストラで使われる楽器はひとつも出てこない。ティンパノン、バグパイプ、レベック…音楽好きを自認する方々でさえピンとこない名前の中世楽器が続々あらわれる。

 その“違和感”を、いかに独特の“異界感”として魅力的に聴かせるか――中世音楽の専門家たちは、その“異界感”の虜になり、自身が半ば“異界の住人”となっていった人々と言ってもいいかもしれない。

 アンサンブル・オブシディエンヌは、ライブと録音物を通じてその最前線を歩んできたフランスのヴェテラン集団だ(Opus111やEloquentiaといったレーベルからリリースされてきた輸入盤を通じて、古楽界隈では日本にも熱心なファンは少なくない)。中世西欧という異界と、いまの私たちとの架け橋をなす、語り部・巫女のような立ち回りをうまく心得ている。【ラ・フォル・ジュルネTOKYO】のステージでも、そうした演奏姿勢が随所で効果をあげていたのが印象的だった。

 中世楽師を思わせる色とりどりの衣装(燕尾服は一切なし)で登場するや、多くの人が初めて目にしたであろう歴史的楽器が取り出され、一聴して何語か?と思う不思議な歌が始まる。今とはまるで違う、何百年も前のパリの街並をゆく女たちの歌。そのパリを含むフランスという王国の治世をめぐり、英仏海峡をまたにかけ戦いあい、各地を経巡った男たちの心情をうたった歌。さらに昔から伝えられてきた伝説、あるいは(今よりずっと切実に日常とむすびついていた)キリスト教にまつわる歌……。

 オペラの発声とはまったく異なる、何語かはともかく発音のわかりやすい歌唱。楽器はいずれも素材感そのまま、雑味のまざったナチュラルな美音を聴かせる。しかも全員、さまざまな楽器をひとりで使い分ける。ひとりで何種もの楽器を奏でたという中世西欧の楽師さながらだ。

 作曲者不詳の歌も多い中世の作品を中心に、ナバラ王テオバルド(ティボー・ド・シャンパーニュ)、ブリュレ、バンショワ、デュファイ……ら中世から近世初期にかけての宮廷楽師たちの音楽をいろいろ。口伝えの物語にもとづく歌、船旅、修道院、巡礼、十字軍、あるいは死と隣り合わせの日々を生きるための思想……テーマ別に2曲ずつ、楽器も気配も変えながら演奏してゆくオブシディエンヌの面々。

 行列歌を歌う修道士役の歌手が、修道院名物のワインを飲みすぎて千鳥足になっていったり、死と隣り合わせの現世に教訓をとく説法師めいた朗読があったり、彼らのステージ衣装が映える芝居がさらに中世楽師らしさを盛り上げる(欲を言えば、欧州人たちにとっての「わかりやすさ」と日本の客席とのギャップを埋めつつ、今どの曲なのか?が明確になる仕掛けがあれば完璧だったかも……配布されたプログラムが、紙1枚表裏の限られた字数で実に端的にまとめられていたぶん、そこは惜しまれた)。

 筆者が聴いた2日目の公演では、最後に通訳つきで楽器解説があったのも良かった。豚の膀胱を「奏者が丁寧に洗浄して」作った管楽器ヴェーズ、ウェールズに残るクルースという弓奏式の竪琴(中世には欧州大陸でも似た楽器が広く使われていたそう)、弦を叩いて音を出すティンパノン(英名ダルシマー)はイランの民俗楽器サントゥールの転用、バグパイプはフランス中部サントル地方の伝統楽器を中世流にアレンジ……と奏者たちの研究と工夫もよくわかる説明。「中世音楽はわからないことも多い。研究を重ねて、現実世界に照らし合わせる、考証と想像力の交わる点を見定めることが重要」、メンバーのフローランス・ジャクマールは舞台裏でそう教えてくれた。

 最後は客席が「アヴェ・マリーア!」と歌い返す部分のある『モンセラートの朱い本』(中世スペインで、巡礼者たちが騒動を起こさないよう歌い踊らせガス抜き&統率を図った傑作)からの1曲で締めくくる。これは無料観賞できる中央ステージEでも彼らが披露したレクリエーション。聴く側まで中世を肌で、自分の声帯の振動で体感できるところまで連れてきてくれたオブシディエンヌ、最高だ。Text:白沢達生

◎公演概要
【ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2018 UN MONDE NOUVEAU― モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ】
2018年5月3日(木・祝)、4日(金・祝)、5日(土・祝)
丸の内エリア(東京国際フォーラム、大手町・丸の内・有楽町)
池袋エリア(東京芸術劇場・池袋西口公園、南池袋公園)
約400公演(うち有料公演 丸の内エリア125公演、池袋エリア53公演)


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