『SR3MM』レイ・シュリマー(Album Review)
『SR3MM』レイ・シュリマー(Album Review)

 先行シングル「T’d Up」の発売時(2018年2月)に、新作を間もなくリリースすると告知していたレイ・シュリマー。予告通り、3か月後の5月4日に発売された本作は、レイ・シュリマーの3rdアルバム『SR3MM』、スワエ・リーのソロ・デビュー作『Swaecation』、そしてスリム・ジミーのソロ作『Jxmtro』の各アルバム9曲ずつで構成された、豪華3枚組となった。米ビルボード・チャートでは、ストリーミング再生数がアルバムの売上に換算されるようになった為、本作のように収録曲の多いアルバムは有利となる。

 レイ・シュリマー名義のスタジオ・アルバム『SR3MM』からは、前述の「T’d Up」の他、昨年夏にリリースした「Perplexing Pegasus」、米メンフィス出身のラッパー=ジューシー・Jをフィーチャーした「Powerglide」、発売直前に公開されたトラヴィス・スコットとのコラボ・チューン「Close」の4曲が、シングルとして先行リリースされている。プロデュースは、メトロ・ブーミン、マイク・ウィル・メイド・イット、30・Roc、TM88等が担当。マイク・ウィル・メイド・イットは、前2作もトータル・プロデュースしている。

 「Perplexing Pegasus」や「T’d Up」のような、重めのトラップは相変わらずで、その他にも冒頭の「Up in My Cocina」や、フューチャーがゲスト参加した「Buckets (Balling)」など、前作から継承したような退屈な曲が続くが、スポーツカーをドリフトさせる、ド派手な演出のミュージック・ビデオも話題となった「Powerglide」や、肉体感のあるヒップホップ・トラック「Rock n Roll Hall of Fame」あたりは目新しく、本作の白眉ともいえる。スロウでは、ザ・ウィークエンドがボーカルを担当したミステリアスな「Bedtime Stories」がいい。

 スワエ・リーのソロ・アルバム『Swaecation』は、ラッパーらしからぬ(?)美しすぎるファルセットに酔う「Touchscreen Navigation」~「Red Wine」、オルタナティヴR&B風味の「Heartbreak in Encino Hills」、ザ・ウィークエンドをそっくり真似た「Heat of the Moment」など、歌モノが中心のアルバム。中でも、スワエ・リーがフィーチャリング・ゲストとして参加した、フレンチ・モンタナの「アンフォゲッタブル」(2017年)に激似のダンスホール・チューン「Guatemala」や、エレクトロ・ポップ寄りの「Hurt to Look」は、グループでは表現できなかった“ソロ・アルバム”としての役割を果たしている。スカイブルーをバックに、花柄のパンツを履いて真っ赤なバラを差し伸べるジャケ写も、“らしい”仕上がり。

 一方、90年代のレコード盤をイメージしたようなジャケ写の、スリム・ジミーによるソロ・プロジェクト『Jxmtro』は、冒頭の「Brxnks Truck」~「Players Club」からゴリっゴリに飛ばす、“ザ・ヒップホップ”的要素満載のアルバム。レニー・クラヴィッツの娘で女優のゾーイ・クラヴィッツがラッパーとして参加した「Anti-Social Smokers Club」や、ファレルがプロデュース&ボーカルを担当した「Chanel」も、彼らのイメージを良い意味で払拭した、ヒップホップ・トラック。その他には、マイク・ウィル・メイド・イットとのコラボ・アルバム『エッジウッド』を3月に発売したばかりの、米アトランタ出身のラッパー=Trouble(トラブル)が「Cap」にフィーチャーされている。ジャジー・ヒップホップ風味の「Changed Up」や、ゼイトーヴェンのプロデュースした“ニュー・トラップ”「Juggling Biddies」、レイ・シュリマーに寄せたミディアム「Growed Up」と、リスナーを飽きさせない選曲も見事。

 レイ・シュリマーの『SR3MM』だけなら、正直退屈過ぎて聴きごたえのないアルバムだったが、個人(ソロ)としての嗜好が明確に現れたソロ・アルバムの仕上がりが、思いの他良かった。スワエ・リーもソロとして、数多くのアーティストにフィーチャーされているワケだし、このまま個々の活動に専念するのもアリ、かも……。

Text: 本家 一成

◎リリース情報
『SR3MM』
レイ・シュリマー
2018/5/4 RELEASE