ニック・ムーン、初ソロAL『CIRCUS LOVE』発売記念インタビュー「ヒネリを加えたポップ・ミュージックを目標にしていた」(前編)
ニック・ムーン、初ソロAL『CIRCUS LOVE』発売記念インタビュー「ヒネリを加えたポップ・ミュージックを目標にしていた」(前編)

 UK出身ポスト・ロック・バンドのフロントマン=ニック・ムーン。バンドのヴォーカル/キーボードとしてのみならず、ソングライティングにおいても中心人物として、デビュー当初からその完成された世界観とメロディー・センスが高い評価を得てきたニックが、2018年4月11日に初ソロ・アルバム『CIRCUS LOVE』をリリース。

 全曲の作詞・作曲・プロデュースすべてをニック本人が手掛けており、KYTEで表現されたポスト・ロック・サウンドとドリーミーな世界観はそのままに、ニック本人がここ数年間で大きく影響を受けたという、エレクトロニック・ミュージックやシンセ・ポップの要素も多く取り入れた、ダンサブルかつ叙情的な作品に仕上がっている。

 今後は日本にしばらく滞在し、ライブ活動や曲作りを行っていくというニック。2月の来日時に行われた彼のインタビューが公開された。

――日本語の勉強は順調に進んでいますか?
ウン、チョット。一日に10回くらい「チョット」って言っている気がするよ(笑)。努力はしているんだけど、今のところは“聞くこと”に集中しているんだ。覚えた言葉はあるけど、まだそれを口にするだけの自信がない。気後れしちゃって(笑)。でも、日本語に耳を傾けることをすごく楽しんでいるよ。スピードに自分を慣らしたりね。

――誰か先生について習っているんですか?
教本のアプリを使っているんだ。それって危険な面もあるよね。独りで勉強して、なんとなく上達したと思い込んで、出かけて誰かに話しかけてみたら「あれれ」って感じだったりするから。まだ赤ちゃんレベルだけど、いつか喋れるようになると思う。そう願っているよ!

――まずカイトが活動を休止してからのあなたの動きを確認させて下さい。2012年6月にアルバム『Love To Be Lost』を発表し、翌年夏にフジ・ロック・フェスティバルに出演しましたよね。その後はみんなソロ活動をしているようですが、バンドは解散したんですか?
いいや。僕らは、解散とかいった大きな決断をするのが苦手なんだ。何か声明を出すとかね。とりあえずあのフジ・ロックでの公演が、現時点でのカイトのラスト・コンサートだよ。僕らはあまりにも付き合いが長いから意思の疎通ができていて、あの時点で、そろそろバンド活動を休んでほかの活動をしたほうがいいかもしれないって、全員が同じ結輪に至ったのさ。その休みがどんどん長引いて、目下僕はソロ・プロジェクトに専念している――という感じかな。

――カイトの活動休止以来、別の形で音楽を作り続けていたということですね。
うん。フジ・ロックでのライヴが終わって間もない頃から、「誰かプロデューサーと曲作りをしてみようかな」とか色々考え始めていたんだ。すぐにシリアスに新しいプロジェクトを始めるというのではなく、とにかくバンドの枠外で色んな人と組んで、楽しむのもいいのかなってね。でも結局これというものに出会えないまま過ごしているうちに、やっぱり独りでやろうと決めたんだ。しばらく家でじっくり曲を作って、どんなものが生まれるのか様子を見ることにしたんだ。

――じゃあこのアルバムは英国で制作したんですね。
ああ。全て自宅で作った。

――過去数年間に作った曲を1枚にまとめた、といったところでしょうか。
そうだね。

――音楽的にやりたいことは見えていましたか?
いや、色々試しながら見極めたんだ。具体的な計画はなくて、ただ、様々なスタイルの音楽やプロダクション方法について学びたかった。僕というアーティストに何が求められているかとか、ヘンなプレッシャーを感じることなく。独りになって、時間をかけて色んなことにトライして、数年が経過した時に、「そろそろこれらの曲を世に送り出したいな」と思えるようになったのさ。

――完成したアルバムは非常にエレクトロニックな作品ですが、最近はエレクトロニック・ミュージックを聴くことが多かったんですか?
そうだったと思う。聴くこともさることながら、エレクトロニック系のコンサートやイベントに行く機会が多くて、そこでハマった感じだね。

――特に影響されたアーティストはいますか?
サウンド面で特定のアーティストに影響されたというのはないかな。好きなアーティストがいても、その人の影響を自分の音楽に反映させるということ自体、僕は得意じゃない。僕が音楽に耳を傾ける時は、たいがいそこからなんらかのフィーリングや感情を受け取って、アーティストがそのフィーリングを通じて伝えようとしていることを探るのが好きなんだ。具体的にどんなサウンドを使っているかってことは、あまり気にしない。だから僕の場合、1枚のアルバムを聴く時は、第一にアーティストが言わんとしていることを探ろうとする。そういう意味で、自分の曲でも同じような作用を聴き手に与えられたらって思うことはあるよ。あと、エレクトロニック系のアーティストに関しては、どちらかというと、コンサートのエキサイティングさに刺激を受けた気がするな。ほら、エレクトロニック系のイベントでは、ヴィジュアルやライティング技術を駆使した素晴らしいパフォーマンスを体験させてくれるよね。すごくパワフルだし、そういう側面に惹かれて意識したところはある。これまでその手のイベントに行ったことがなかったんだ。ライブを観に行くと言えばいつもバンドで、どういう展開になるかだいたい想像がついた。その点エレクトロニック・ミュージックの世界では、ライブのアプローチが全く違う。アルバム音源通りに再現する必要はないし、そういったことがすごくエキサイティングだと思うんだ。

――このアルバムについて、ひとつカイト時代と共通していることがあるとしたら、それは、流行などを気にせず、どこにも属さずに、独自の道を歩んでいるという点ですね。
そう思うよ(笑)。あまりほかのことは気にしていない。

――そういう頑なな独自性のルーツはどこにあるんでしょう?
カイト時代から僕なりに思うところがあったんだけど、そもそも故郷がレスターで、しかも辺鄙なエリアの出身なんだ。だからバンドを結成してマネージャーだのレーベルだのと仕事をし始めた時も、そういうことはすごく遠い世界のように感じられた。ロンドンを拠点に活動しているバンドとは感覚が違って、例えば毎晩色んなイベントに顔を出したり、しょっちゅうミーティングに行ったりといった生活とは無縁だったんだよね。だから常に自分たちがやりたいことをやっていた。人々がなんらかの反応を見せてくれたら、それはそれでうれしかったけど、そういうメンタリティをずっと失わなかったのさ。だって僕の故郷はレスターの小さな村で、バンドやミュージシャンなんかほかにいなかった。家族にしても、音楽活動を応援してくれはしたけど、エンターテイメントの世界のことは一切知らない人たちだった。興味は持ってくれても、セールスの話とかはしないし(笑)。そういう静穏な環境を維持するのも、なかなかいいことだよ。子供の頃から同じ友達と付き合っているし、僕自身も変わっていないんだろうね。

――曲作りを始めてからアルバムが完成するまでの過程は、どんな感じだったんでしょうか?
間違いなく流れがあったよ。アルバムには、ほぼ生まれた順番に曲を収めているんだ。だから最初の数曲は一番早い段階で生まれて、中でも『Guul』は、自分がやりたいことに近付けたという手応えを得た最初の曲だった。混沌としていてクレイジーなんだけど、“ポップソング”と呼べるものを書こうとしていたんだ。つまり、なにか面白いアプローチでポップソングを書こうとしていた。なによりもそれを試してみたかった。というのも、僕は元々ポップ・ミュージックが大好きだし、特にそれがユニークな音楽作品に仕上がっていれば、さらにいっそうハマる。それを達成できる人は、本物の才能の持ち主だと思うんだ。そんなわけで僕は、ヒネリを加えたポップ・ミュージックを目標にしていたのさ。

――カイトではトム(ギター)が曲を書いて、あなたがメロディと歌詞をつけるという分業制でしたよね。ゼロから曲を完成させる作業は楽しめましたか?
うん。総体的にすごく楽しかった。間違いなく新たなチャレンジではあったけどね。正直なところ、曲作りを独りで始めた頃は、あまり不安は感じていなかった。「とにかくやってみて、様子を見よう。僕以外の人間は誰も聴かないかもしれないし、自分のためだけの音楽になる可能性もあるけど、それで構わない」とね。色々困難にも直面したよ。様々な決断を迫られて、自分の判断能力を信じないことには作業が進まない。その点については、慣れるまで少し時間がかかった。でもやっているうちに、自分にとって正しい選択ができるようになる。例えば、どの要素をキープして、どの要素を排除すればいいのか――とか。そういう事情もあって、アルバムが完成するまでにこれだけの時間を要したんだろうね。僕は常に新しいことを学び、常に自分のどこかを向上させるべく努力をして、可能な限り最高の作品を作り上げようと試みていたわけだから。

――結構孤独なプロセスだったんじゃないですか?
そうだね、そういう時もあった(笑)。トキドキ。でも場合によっては、“孤独”というのは違うかもしれないけど、自分を外の世界から切り離すことも必要なんだと思う。隔絶された環境を作れば、曲を作り始めた時に自分の頭のあったアイデアを突き詰めて、迷いなく完成させられるんじゃないかな。それは素晴らしいことだよね。ただ、やっぱり寂しくなることも時々ある。午前4時に独りで作業をしていて、「もう寝たほうがいいのかもなあ」って思ったり。なんでもそうなんだろうけど、いい面と悪い面があるんだよ。

――実際のソングライティングのプロセスを教えて下さい。パターンがあったりするんですか?
やりながら少し変わっていった気がするな。最近では、色んな音源を集めてカットアップして、加工する……といった試みをしている。カイト時代の僕は、曲をもらって、ピアノを弾きながらそこにメロディを乗せて歌詞を書いていたから、今回のアルバムでも最初は同じことをやっていたんだ。キーボードを弾きながら歌うことで、曲の骨組み部分を作っていくという。でもその後プロダクションに興味を抱いて、あれこれ学んで実践して、まずは打ち込みのドラムビートを作ったり、サウンドにエフェクトをかけたりして、そういう音源を元に曲を形作るという試みを始めた。だから今では曲作りの方法が増えて、最初から「こういう風に書こう」と決めて取り掛かるんじゃなくて、成り行きに任せるようになった。そうすることで、常に曲作りの作業がフレッシュに感じられるし、常に楽しめるような気がするんだ。

――今回は全編エレクトロニックなんですか? それとも、生楽器も使ったんでしょうか。
ナマのギターやベースも多少弾いているし、シンセサイザーも1台持っているから、それも使った。ほら、僕の家のスタジオ・スペースはそんなに広くはないから、あれこれ機材を持ち込めないんだ。あとは自分の声を加工して使っていて、ギターやピアノより以上に、声を楽器として活用したんじゃないかな。とはいえ、大半はエレクトロニックなプロダクションだね。エレクトロニックなプログラミングだったり、MIDI仕様のレコーディング音源だったり。つまりヴァーチャル・シンセみたいなものだ。コンピューターでの音楽制作の可能性は無限にあるし、音や声の加工はかなり掘り下げたよ。原型を留めないくらいに響きを変えたりして。

――リリシストとしてのアプローチはどうでしょう?あなたはカイト時代から分かりやすいストーリーテリングをするタイプではなくて、少々難解な歌詞を書いていましたが、今回は最初から書きたいことがあったのですか? それとも音にインスパイアされた?
両方のケースがあったと思う。でもカイト時代に比べると、今回の歌詞はよりパーソナルだと言えるね。ほら、当初はこれらの曲をリリースするかどうかも分からなかったし、あとで説明しなくちゃならないことになるとは、考えていなかった。それゆえに、僕自身を取り巻く具体的なシチュエイションや特定の人たちについて、すごく無防備な歌詞を綴っていたんじゃないかな。アルバムを聴き直すと、「そうそう、これはあのことについて書いた曲だな」と分かる。どの曲も題材を詳しく説明できる。説明したいか否かは別にして(笑)。そんなわけで、自分でも気付かないうちにそういう歌詞を書いていたんだ。よりパーソナルな歌詞をね。で、サウンド・プロダクション共々、本当に学ぶことが多かった。本格的なプロダクションなんてこれまでやったことがなかったし、作りながら実験して、勉強して、面白い作品を作れないか探っていたのさ。

――あなたが音楽制作から得ている充足感って、どういうものなんでしょう?
音楽を作る時に得られる、説明し難いフィーリングがあるんだよ。それは、満足の行く曲ができた時に得られる、「ああ、この曲は2時間前には存在しなかったんだ」という実感であり、「これは僕が作り上げたもので、永遠に僕のもので、たとえ両親や友達にしか聴かせなかったとしても、スペシャルなものなんだ」というフィーリングが、僕を後押ししている。やめたくてもやめられないんだ。「もしかしたら別のことを試したほうがいいのかな」とか「スペイン語の勉強でもしようかな」とか、たまにふと考えないわけではないんだよ(笑)。でも結局、「また曲を作ろうかな」と思ってしまう。奇妙な依存症を抱えているようなものだね。

――その友達や両親にはソロの曲を聴かせましたか?
たまに数曲聴かせているよ。母からはいつもCDを頼まれるんだ。車の中で聴けるように。ストリーミングのやり方が分からないからCDじゃないと困ると言って、用意して渡すと、「まあまあだったわ」みたいな感想が返ってくる(笑)。母はロビー・ウィリアムスとかが好きで、自分なりの嗜好があるんだ。父のほうは、もしかしたらまだ聴いていないかもしれない。カイト時代も「聴いているとヒヤヒヤして落ち着かない」と言っていたっけ。それも理解できる。好きな音楽のタイプも違うし、「なんだこりゃ」と思われても困るしね。

――じゃあカイトのライブも観たことがないんですか?
カイトを結成した当初にレスターでのライブを観てくれているけど、「うるさ過ぎる」と文句を言っていた気がする(笑)。母もやっぱり最初の頃に、地元でのライブを数回観ているだけで、ふたりには向いていないんだと思う。家でリラックスして、CDで音楽を体験することに慣れている人たちには、なかなか難しいものだよね。

――ソロでアルバムを完成させて、自分自身について新たに発見したことはありましたか?
常に発見はあったよ。常に何かを学んでいるという実感があったしね。何かが「完成した」と判断して手放すことが、僕はすごく苦手なんだ。今でも、「そういえばこの曲は、実はこういうこともしたかったのにやり遂げられなかったんだ。だからお手柔らかに!」とか、言い訳をしたくなる(笑)。そこもやっぱり、独りでやるとなると仕方ないんだろうね。バンドならほかのメンバーが「いいね」と言ってくれたりして、安心できる。みんながいいと思ってくれるなら、僕もハッピーだし。でも独りでやっていると、「あそこをああいう風にやっていたらどうなったかな」と考えずにいられない。経験を重ねれば、だんだん腹が据わるんだろうけどね。自信が備わって、あれこれ心配しないようになるんだと思う。

――ジャケットも自分で手掛けたんですか?
うん。ヴィジュアル制作はあまり経験がないんだけどね。僕の兄弟がグラフィック・デザイナーだから、カイトにまつわるヴィジュアルは彼が手掛けていた。でも、Photoshopをいじるのが好きで、自分でやってみようと思った。色んなものの写真を撮って、それを並べたり、ミックスしたり、何ができるのか試して、自分の楽しみとしてやっていただけなんだけど、このヴィジュアルはアルバムのトーンに合っていると感じたんだ。

――ライブでは、どんな形でプレイするのでしょうか?
今まさにリハーサルをしていて、興味深い試みになると思うよ。今のところ僕独りで全パートを演奏する予定で、ループステーションとキーボード、サンプラー、ヴォーカルという形になるんじゃないかな。だからこれらの曲を再現しつつ、新しい要素もその場で加えていく。50%くらいは新しい要素で形作るつもり。だから、どの曲も聴けば分かると思うけど、フレッシュで面白い表現になればと願っているんだ。足を運んでもらうだけの価値を付加しないとね!

インタビュー:新谷洋子

◎リリース情報
ニック・ムーン
ファースト・アルバム『サーカス・ラヴ』
2018/4/11 RELEASE
<国内盤>CD
SICX-99 2,200円(tax out)
※初回仕様限定 直筆サイン入り紙ジャケット予定

<Nick Moon初のソロ・アルバム『CIRCUS LOVE』 発売記念>
4/11の発売日に先行し、ソニーミュージック洋楽(@sonymusic_jp)Instagramのストーリーズ限定で新作の全曲試聴を実施中
詳細:http://smarturl.it/CIRCUSLOVEinsta
期間:2018年4月7日(土)0:00~2018年4月10日(火)23:59まで
※開始から24時間経過後はストーリーのプロフィール画面「ハイライト」からご試聴ください。
※Instagramストーリーズの機能は、iOSおよびAndroid版Instagramアプリのバージョン25以降で利用できます。

◎出演情報
【アルバム『CIRCUS LOVE』発売記念 東名阪タワーレコードインストア・イベント】
2018年4月14日(土)12:00~
愛知県・名古屋パルコ西館1Fイベントスペース
2018年4月14日(土)19:00~
大阪府・タワーレコード 梅田NU茶屋町店
2018年4月21日(土)12:00~
東京都・タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
2018年4月27日(金)18:30~
東京都・タワーレコード渋谷店

ミニライブ+特典会
※ミニライブは観覧無料

【GREENROOM FESITVAL ’18】
2018年5月26日(土)& 27日(日)

【ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2018「BONES & YAMS」】
2018年6月7日より全国22公演
※オープニングアクトとして出演