『セックス・アンド・シガレッツ』トニ・ブラクストン(Album Review)
『セックス・アンド・シガレッツ』トニ・ブラクストン(Album Review)

 2018年2月に開かれたリアーナのバースデー・パーティーに登場し、「主役を奪われた!」と言わせた、R&B界を代表するデーヴァ=トニ・ブラクストン。リアーナだけでなく、彼女に憧れて歌手を目指したシンガーは数知れず、新作を待ち望んでいるファンも多い。

 本作『セックス・アンド・シガレッツ』は、2014年にリリースしたベイビーフェイスとのコラボ・アルバム『恋愛~結婚離婚』以来4年振りの新作。ソロ・アルバムとしては、全米9位をマークした7thアルバム『パルス』から8年振り、通算8作目のスタジオ・アルバム。

 2017年9月にリリースした1stシングル「デッドウッド」は、そのリアーナが大ヒットさせた「ラブ・オン・ザ・ブレイン」(2016年)を手掛けたノルウェー出身の音楽プロデューサー=フレッド・ボールが担当した、90年代風のミッド・チューン。ヴァースはファルセット、サビではパワフルな歌声を響かせる、トニのボーカル・ワークが映える1曲で、旋律も文句ナシに美しい。

 アルバム・リリースの1か月前に公開した2ndシングル「ロング・アズ・アイ・リヴ」は、【グラミー賞】で<最優秀R&Bソング賞>を受賞した経歴をもつアントニオ・ディクソンによるプロデュース。これまでには、アリアナ・グランデやビヨンセ、ト二の6thアルバム『リブラ』(2005年)の楽曲も担当している。爽やかな風が通り抜けるスムース&メロウで、ヒットしなかったのが不思議なくらい良い曲。

 フレッド・ボールが手掛けたタイトル曲は、ピアノ1本で歌う壮大なバラード。拳をきかせたゴスペル仕込みのボーカルには、ただ圧倒されるのみ。もう1曲のピアノ・バラード「Foh」は、上品で落ち着いた、流行関係なく長く聴ける名曲。初期のバラード(「アンブレイク・マイ・ハート」あたり?)を彷彿させる、熱を帯びたパートもちらほら見受けられる。スタンダードなアーバン・メロウ「ソーリー」も、彼女のシンガーとしての意地をみせた佳曲だ。

 「バブリー」(2008年)のヒットでブレイクした女性シンガー・ソングライター=コルビー・キャレイとのデュエット曲「マイ・ハート」は、彼女の柔らかいオーガニック・サウンドが、意外にもトニのハスキーな声色と相性良く溶け合う。スコットランド出身のスチュアート・クライトンが手掛けた「コーピング」や、全米で再ブレイク中のダンスホール・チューン「ミッシン」といったアップまで、どんな曲調も自分色に染め上げられるのが、トニ・ブラクストン最大の魅力。最新の流行を取り入れることも忘れない。

 ヒット曲を連発した90年代以降、2000年代に入ると人気は徐々に下降し、重い病気を患ったり、破産申請をしたりと、引退に追い込まれるまでに至ったトニだが、前述の『恋愛~結婚~離婚』が【第57回グラミー賞】で<最優秀R&Bアルバム>を受賞してから、また息を吹き返したような印象を受ける。それは、本作を聴いていただければお分かり頂けるだろう。

 そういえば、2月にラッパーのバードマンと婚約したらしいが、そんなことよりもトニ・ブラクストンが50歳という事実に驚かされた……。

Text: 本家 一成

◎リリース情報
『セックス・アンド・シガレッツ』
トニ・ブラクストン
2018/3/23 RELEASE