<ライブレポート>乃木坂46・生田絵梨花、聖夜の【MTV Unplugged】で見せたシンガーとしての可能性
<ライブレポート>乃木坂46・生田絵梨花、聖夜の【MTV Unplugged】で見せたシンガーとしての可能性

 2017年12月25日、乃木坂46の生田絵梨花が、伝統のアコースティック・ライブ【MTV Unplugged】に出演した。1989年に米ニューヨークでスタートして以来、そのアーカイブには、エリック・クラプトンやマライア・キャリー、オアシスやアデルなど、名だたるアーティストらが名を連ねているが、本公演は生田にとって初のソロライブであると同時に、リアルタイムで生放送されるという企画史上初の試みが行われたという意味でも、記念すべきステージとなった。なお公演の模様は、1月28日にディレクターズ・カット版としてオンエアされる。そこでここで一度、あのメモリアルな一夜のことを振り返ってみたいと思う。
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 バンドを構成するのは、ギター、ベース、ドラム、ピアノ、弦カルテット。乃木坂46の10枚目シングルにして、生田の初センター作品『何度目の青空か?』より、カップリングの「私、起きる。」でショーは開幕。生田をはじめとする当時高校生だったメンバーによる楽曲で、オリジナルは10代特有の感情の揺らぎをメランコリックなテクノポップで表現しているが、この日はピアノとストリングスとアコギが美しく折り重なり、サウンドは生感と比例して味わい深く、当時と比べてぐっと大人っぽくなった生田の歌声ともマッチしていた。続けて、ボサノヴァ調の前半パートから一転、後半はドラムとピアノが嬉々として踊りだす「僕が行かなきゃ誰が行くんだ?」へ。【MTV Unplugged】のマナーに則った、緩やかな滑り出しである。

 初ソロライブにして由緒ある【MTV Unplugged】であり、サイリウムやコールは禁止という慣れない舞台だけあって、かかるプレッシャーや緊張は大きかったはずだ。しかし、楽曲ごとに表情を変え、前のめり気味に歌声を届けていく様子からは、彼女がステージに立つプロとしての覚悟や度胸をとっくに備えていることが窺える。グループとしての活動と並行しながら、ライブや音楽番組ではピアノの腕前を披露し、『レ・ミゼラブル』といった名作ミュージカルにも出演するなど、アイドルの枠に収まらない活動の経験値が、今回のソロ・ステージを支えていたのは間違いないはずだ。

 とはいえ、アイドルとしての自分を偽ることも過剰装飾することも、ましてや否定することもなく、あくまで“乃木坂46の生田絵梨花”として彼女がパフォーマンスに臨んだことは、所属グループの楽曲を中心に組まれたセットリストを見ても分かる通り。「やーん、皆さん静かですねー!」「普段、声援飛び交ってるのに慣れてるので、もうどうしよって感じです今。あーどうしよ。どうしましょう」と、トークの独特な温度感も健在だ。

 「6年もやっていると、別れがすごく多くなってくる」「寂しいなって気持ちもありつつ、乃木坂でできた縁や繋がりは永遠に続くものだと思ってるので、そういうものをずっと大事にしていきたいと思います」と、先日の東京ドーム公演でも同様のことを話していたが、まさにその東京ドーム公演がラスト・ライブとなったメンバー、中元日芽香のセンター曲「君は僕と会わない方がよかったのかな」を抑揚たっぷりに歌い上げたかと思えば、昨年グループを卒業した橋本奈々未のソロ曲「ないものねだり」では、ブレスやファルセットの繊細なニュアンスも細かに汲み取っていく。

 元AKB48前田敦子の「右肩」を皮切りに、中盤ではカヴァー・コーナーを展開。欅坂46「二人セゾン」は、もともとピアノとストリングスが映える楽曲だったが、この日はそれが生楽器で鳴らされていているうえに、歌い上げるヴォーカルは鐘の音のように高らか。本家の「二人セゾン」が儚く切ない聴き心地なのに対し、こちらはどこか祝祭的なムードを漂わせていた印象だ。歌唱前、「(歌詞の解釈が)すごく難しかった。何日も悩んで歌詞を読み込んで、なんとなく自分なりの見え方ができた」と前置きしていたが、先輩/後輩アイドルの楽曲も自分なりに解釈して、真摯に歌と向き合う姿勢も、6年間のアイドル・キャリアで培われてきたものの一つなのだろうと、感慨深い一幕だった。

 『塔の上のラプンツェル』より「輝く未来」、『アナと雪の女王』より「生まれてはじめて」と、ディズニー映画楽曲のパートに転じると、いよいよ本領発揮である。セクションごとにテーマがはっきりと打ち出されていたこの日、アイドル/シンガーとミュージカル女優という2面性がカチリとはまったのがこのセクションだったし、外界を想う少女と外界を謳歌する少女の対比という点でも、生田は見事にキャラクターを歌い分けていた。“乃木坂46の生田絵梨花”にとって、アイドル活動もミュージカル活動も延長線上にあって相互関係にあるのだと、ここでのパフォーマンスを観れば感じられたはずだ。

 東京ドーム公演で万感のフィナーレを飾ったことも記憶に新しい「きっかけ」、生田の初センター曲「何度目の青空か?」、乃木坂46が初めて『紅白』に出演した際に披露され、生田のピアノ演奏が乃木坂駅の発車メロディーにも起用されている「君の名は希望」と、本編終盤は自分のヒストリーをハイライト表示していくような流れ。そしてアンコールは、エレキ・ギターを解禁し、歌声もドスを利かせたロック・ナンバー「低体温のキス」、乃木坂46のライブでも定番の盛り上げ番長「オフショアガール」、「ダンケシェーン」と、格式を取っ払って大騒ぎだ。振り返ってみれば、彼女は最後まで等身大でステージに立ち続けたし、だからこそ、様々な音楽を自分のフィルターを通してアウトプットしていたこの日のステージは、彼女が今後どんなシンガーになっていくのだろうと、そのポテンシャルに思いを馳せずにはいられない一夜になったのだと思う。

Text by Takuto Ueda

<セットリスト>
01. 私、起きる。
02. 僕が行かなきゃ誰が行くんだ?
03. 君は僕と会わない方がよかったのかな
04. ないものねだり
05. 右肩
06. 二人セゾン
07. 輝く未来
08. 生まれてはじめて
09. きっかけ
10. 何度目の青空か?
11. 君の名は希望
-En-
12. 低体温のキス
13. オフショアガール
14. ダンケシェーン

◎公演情報
【MTV Unplugged: Erika Ikuta from Nogizaka46】
開催日:2017年12月25日
放送日:2018年01月28日 19:00~20:00