天才振付家モーリス・ベジャールがこの世を去って10年。そのベジャール没後10年記念シリーズの第一弾として、モーリス・ベジャール・バレエ団の3年ぶり17度目の日本公演を開催中だ。11月17日から始まったAプロでは『魔笛』を披露した。 
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 モーツァルトのオペラの中でも最もポピュラーな『魔笛』をベジャールがまるごとバレエ化し、初演されたのは1982年。日本では今まで2度しか上演されてこなかった、貴重な舞台公演となり、プルミエ公演には大勢のファンが詰めかけていた。

 オペラの、各アリアや重唱はそのままに、ストレート・プレイ(演技)の部分はフランス語で置き換え、ダンサーのマイムに合わせ語り踊る「語り手」が登場するのが特徴的だ。アリアや三声や五声などのアンサンブルにより物語が進んでいく部分はドイツ語の歌唱がそのまま採用されている。歌詞や息づかいを含めた「歌」を背景に、ダンサーがキャラクターを表現していくという舞台を見る機会は多くない。ベジャールはこの最もポピュラーとも言えるオペラを題材に、その難題にひとつの答えを出していると言えるのではないだろうか。

 例えばオペラ歌手では絶対に表現出来ない、本当はこんな様子だったのかもしれないと思わせられたのは、「鳥男」パパゲーノ。舞台中を飛び回る様子は、まるで本当の鳥を思わせるチャーミングさと軽やかさを備えていた。また「火の試練」「水の試練」をイシス・オリシスに託し、象徴的にした手法はベジャールの『第九』を思わせるもの。ベジャールらしい象徴的なパが散りばめられた「魔笛」は、よりいっそう儀式性が明瞭になり、今尚「新しい」舞台として見る者に神秘を感じさせ、興味をかき立ててくれる舞台であった。

 この後、11月25日からは、3日にわたってBプロで「ボレロ」「ピアフ」「アニマ・ブルース」「兄弟」の4作品が披露される予定。誰もが一度は目にしたことがあるであろう、ベジャールの名を世界に知らしめた最高傑作「ボレロ」。エディット・ピアフの歌に魅了されたベジャールによるオマージュ作品「ピアフ」。「アニマ・ブルース」と「兄弟」は現アーティスティック・ディレクターのジル・ロマンの振付作品となっている。いずれも本家のベジャール・バレエ団による舞台を堪能できる、またとない機会だ。Text:yokano

◎公演情報
モーリス・ベジャール・バレエ団 Aプロ「魔笛」
振付:モーリス・ベジャール
音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
装置・衣裳:アラン・ブレの原案に基づく
衣裳デザイン:アンリ・ダヴィラ
照明デザイン:ドミニク・ロマン
※写真は11月17日公演(C)Kiyonori Hasegawa