20年近くの歳月を一跨ぎにする揺るぎない美意識…ジザメリ『ダメージ・アンド・ジョイ』(Album Review)
20年近くの歳月を一跨ぎにする揺るぎない美意識…ジザメリ『ダメージ・アンド・ジョイ』(Album Review)

 リード兄弟が中核を成す伝説的ノイズ・ポップ・バンド、ジーザス&メリー・チェインが、3月24日、実に19年ぶりとなるアルバム『ダメージ・アンド・ジョイ』をリリースした。プロデューサーは元キリング・ジョークで、ポール・マッカートニーとのプロジェクト=ファイアーマンでも知られるユース(本作ではベース演奏も担当している)。ジザメリはつい昨年の2016年2月に、デビュー・アルバム『サイコキャンディ』の30周年ツアーで来日も果たしていた。

 思えば2014年の春、ビーディ・アイが来日公演を行った折に、同時来日していたアラン・マッギーが会場で公開インタヴューを行った。「ジーザス・アンド・メリー・チェインが新しいアルバムを作る予定だ。本当だよ」という話をしていたのだが、それが遂に現実のものとなったわけだ。アラン・マッギーと言えば、英クリエイション・レコーズの総帥として、ジザメリやプライマル・スクリーム、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインにオアシスといった名だたるバンドを世に送り出した人物だ。彼は横浜アリーナでの発言とほぼ時を同じくして、ジザメリと新たなマネージメント契約を結んでいた。

 新作『ダメージ・アンド・ジョイ』は、まさしくクリエイションからの前作『マンキ』の続きを描いたという印象で、20年近くの歳月を一跨ぎにしてしまう揺るぎないメンタリティと美意識にこそ驚かされる作品だ。冒頭からジム・リードが《俺はロックンロールの切断手術さ》と殺伐とした心象を歌い上げる「Amputation」に始まり、チープなプログラミング・ビートを用いて『オートマティック』(1989)の頃の作風を彷彿とさせる「All Things Pass」や「Get On Home」などもある。苛立ちや倦怠感をたっぷりと振り撒きつつ、甘美なメロディをしっかりと残してゆくさまもまさにジザメリ節だ。

 ウォール・オブ・サウンドを歪んだギターの爆音に置き換えた不良版ロネッツ。彼らのロックはときとしてそんなふうにも評されてきたが、かつてホープ・サンドヴァルが担った美声ゲストの存在感を、今回は「Song for a Secret」と「The Two of Us」でイゾベル・キャンベル(リード兄弟と同じくスコットランド出身で、初期ベル・アンド・セバスチャンのメンバーとしても知られるシンガー・ソングライター)が、またアルバム終盤の「Black and Blues」ではスカイ・フェレイラが担い、見事な活躍を見せている。

 ちなみに、「The Two of Us」と最終ナンバー「Can’t Stop the Rock」は、リード兄弟の実妹であるシスター・ヴァニラ(リンダ・リード)のシングル曲としてジムが提供したものが初出。ジザメリ版の「Can’t Stop the Rock」は、3兄妹コラボの包容力に満ちた一曲となった。兄弟の険悪な関係が表出し、「I Hate Rock’n’Roll」で締めくくられた前作『マンキ』(その後、長らく活動休止状態にあった)と比べると、これでも随分丸くなったものだな、としみじみさせられる。(Text:小池宏和)


◎リリース情報
アルバム『ダメージ・アンド・ジョイ』
2017/03/24 RELEASE
WPCR-17645 2,457円(tax out.)
iTunes:http://apple.co/2ha6utP