ATCQ、ラン・ザ・ジュエルズからD.O.A.まで、トランプ時代のプロテスト・ミュージックを探る
ATCQ、ラン・ザ・ジュエルズからD.O.A.まで、トランプ時代のプロテスト・ミュージックを探る

 トランプ政権が発足してから2週間余りが経過したが、女性の権利を擁護する目的で政権誕生翌日の21日に世界中で行われた【女性行進】に始まり、現在もイスラム教徒の入国禁止を命じる大統領令に反対する集会が毎日のように全米で行われており、何十万人ものアメリカ人が街頭に出て抗
議活動に参加している。

 1960年代の革命はボブ・ディランやクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(CSNY)の楽曲が燃料となり、激動の過去20年間はU2やコモン、そしてアンタイ・フラッグなどが反抗者たちのテンションを上げてきたが、今このような状況で人々は反骨心を維持し、行動するモチベーションを高める為にどのような音楽を聴いているのだろうか? 

 そこで米ビルボードでは、トランプ政権への反発が渦巻く現在のアメリカにおいて、反骨心を煽る音楽とは何なのか、どのようなアーティストや楽曲が売れているのかを探るべく、全米にあるいくつかのインディーズ・レコード店に話を聞いた。

 全国で共通して人気だったのは、ア・トライブ・コールド・クエスト(ATCQ)のアルバム『ウィ・ゴット・イット・フロム・ヒア・サンキュー・フォー・ユア・サービス』とラン・ザ・ジュエルズ(RTJ)の『ラン・ザ・ジュエルズ3』だった。これは各アーティストの代表作とも言えるクオリティはもちろんのこと、挑発的な歌詞や時代の風潮に直接訴えかけるような楽曲が数多く含まれているからだろう。

◎ビー・サイド・レコード(ウィスコンシン州マディソン)
 「ATCQとRTJのアルバムはもちろんたくさん売れているけれど、(トランプ大統領の)就任式後にトム・モレロ(ナイトウォッチマン名義)のEP『ユニオン・タウン』(2011年)が売れたんだ。あれは前はあまり売れてなかったのに」と店のバイヤーが話した。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのギタリストによる8曲入りのこのアルバムには、ウディ・ガスリーの愛国歌「この国はあなたの国」やラルフ・チャップリンの労働歌「連帯よ永遠に/Solidarity Forever」、マール・トラヴィスの炭鉱労働者バラード「シックスティーン・トンズ」や、モレロ自身による「ユニオン・タウン」、「ア・ウォール・アゲインスト・ザ・ウィンド」などが収録されている。

◎アメーバ・レコード(カリフォルニア州ロサンゼルス)
 「あまりにもたくさんのプロテスト・ソングとそれらが収録されているアルバムへの関心が高まっているように見えるので、計るのがちょっと難しいけれど、ここ2週間の間CSNYの「オハイオ」のような曲を店内でかけているのは確かだよ」と店のオーナー、マーク・ワインスタインが明かし、「あれはいつも反響が大きいね。今ああいう音楽に理解を示す人が多くなっていることは疑いようがない。ピート・シーガー、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ビリー・ブラッグの作品なんかも確実に売れ行きが伸びてるね」と話した。

◎ラフ・トレード・レコード(ニューヨーク、ブルックリン)
 「結構値の張るフェミニズム・ポスターの輸入版画集を仕入れたら、あっと言う間に売り切れてしまって驚いたよ」と店の仕入れ担当者が話した。RTJがよく売れており、トランプ大統領就任後に『エッセンシャル・ボブ・ディラン』が4つ売れたそうで、これは普段よりかなり多いとのことだ。このベスト・アルバムには「風に吹かれて」、「時代は変わる」、「マギーズ・ファーム」、「アイ・シャル・ビー・リリースト」、「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」などの有名フォーク・プロテスト・ソングが収録されている。

 マネージャーのジョージ・フラナガンは、ATCQのアルバムが売れているのは素晴らしいからではあるが、同時に「ウィ・ザ・ピープル」などいくつかの曲が現在の状況を予見したかのようなメッセージ性を含んでいるからだと話す。また、2作の7インチ盤が(比較的)飛ぶように売れているという。一つはカナダのベテラン・パンク・バンドD.O.A.の「ファックド・アップ・ドナルド」で、ここ数ヶ月の間で1ダース強ほど売れた為、再発注を数回かけたそうだ。もう一つはデッド・エンディングのアグレッシブな「イヴァンカ・ウォンツ・ハー・オレンジ・バック」で、6枚ほど売れたとか。この数字は少ないように思えるだろうが、あまり知られていないアナログ盤シングルが短期間で売れた数としては多いとフラナガンは説明した。