クリープハイプ【COUNTDOWN JAPAN 16/17】抉るだけでは「痛い」から、傷を舐め合う「愛してる」――ふがいない現実を超える生々しい「ラブ&ピース」の形 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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クリープハイプ【COUNTDOWN JAPAN 16/17】抉るだけでは「痛い」から、傷を舐め合う「愛してる」――ふがいない現実を超える生々しい「ラブ&ピース」の形

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クリープハイプ【COUNTDOWN JAPAN 16/17】抉るだけでは「痛い」から、傷を舐め合う「愛してる」――ふがいない現実を超える生々しい「ラブ&ピース」の形

クリープハイプ【COUNTDOWN JAPAN 16/17】抉るだけでは「痛い」から、傷を舐め合う「愛してる」――ふがいない現実を超える生々しい「ラブ&ピース」の形

 2016年12月28日~2017年1月1日の明け方にかけて、日本最大級のカウントダウン・フェス【COUNTDOWN JAPAN 16/17】が、今年も千葉・幕張メッセ国際展示場にて開催された。クリープハイプの出演は12月30日。彼らが会場で一番大きな「EARTH STAGE」に立つのは4回目のことだった。

クリープハイプ【COUNTDOWN JAPAN 16/17】写真


<怒りや不満から成る音楽、それに合わせて何万人が笑顔で叫ぶ一つの言葉>


 かの有名なスローガン「セックス、ドラッグ、ロックンロール」は、ベトナム戦争が泥沼化していた時代、60年代~70年代のヒッピー・ムーブメントから誕生した。この思想には反戦の意が込められていたものの、奔放さ故に自ら身を滅ぼす者も多く、80年代には真逆の行動理念を持つ思想「ストレート・エッジ」がワシントンD.C.のハードコア・パンク・シーンから広まることになる。アルコールや煙草も含めた享楽の一切を断絶するというこの「ストレート・エッジ」、今で言う“草食系の完全体”といったところであり、現代の若者はこちらに近いかもしれない。


 一方、クリープハイプを無理やりどちらかに当てはめるとすれば、間違いなく「セックス、ドラッグ、ロックンロール」だろう。もちろんドラッグは「ダメ、絶対」。それほどぶっ飛んではいない。ただもう少し、ほんの少しだけ健全に、このふがいない現実への怒りや不満を音楽として爆発させながらも、何万もの人に「セックスしよう!」と笑顔で叫ばせる。実際にするかしないかは別として、この光景自体は「ラブ&ピース」以外のなにものでもないだろう。


<抉るだけでは「痛い」から、傷を舐め合う「愛してる」>


 約40,000万人を収容するこの「EARTH STAGE」。メンバーと共に姿を現した尾崎世界観(vo)は、「こんな景色を前に何を話していいかわからないので、ちょっと、10秒、時間をください」と、おもむろにステージの前方へ。なにかと思いきや投げキスだ。それから再びマイクの位置に戻り、今度は小声で「がんばります」と囁くなど、本当にどこまでもキザなヴォーカルだと思う。それでも鼻につかないのは、それが自然体だからというわけではなく、格好つけていることを隠さない自然さ故のことだろう。


 男性の姿も多く、黄色い歓声に交じって野太い歓声もあちこちから上がる中、一曲目に演奏されたのは「イノチミジカシコイセヨオトメ」。尾崎世界観が自らの命を削るように歌うのはいつものことだが、年末特有の空気感もあり、この日は必死さに拍車がかかっていた。正直に書こう。喉の調子はお世辞にも好調とは言えず、高音部分ではほとんど声が出ていないこともあった。本来の伸びやかな声で聴きたいと思う人もいたかもしれない。それでもやはり、苦しそうに歪むその表情や、大きく開けられた口の奥で光る銀歯、掠れた声などはむしろ色っぽく、続いて披露された「エロ」の疾走感を助長し、小泉拓(dr)の力強いビートから始まる「百八円の恋」では、ひたすら連呼される「痛い」という言葉に説得力を与える結果になったのだ。


 最初のMCでは、「今年もいい年になりました。ありがとうございました」という言葉が呟かれた。2016年、クリープハイプはシングル『破花』と『鬼』、そしてアルバム『世界観』の3作品をリリース。また、尾崎世界観は自身の本名からタイトルをつけた半自伝的小説『祐介』を刊行した。バンドと個人の“世界観”が様々な形となる一年だったが、尾崎世界観は「来年は更にいい年にしたいです。今年よりも“鬼”いい年にしたいです」と、新年への意気込みから次の曲へと上手く繋ぎ、小川幸慈(g)のリズミカルで攻撃的なギターリフと、独特な日本語の言い回しが冴え渡る「鬼」へ。歌詞を「束の間の休息 幕張の六畳間で」に変えるなど、ライブならではのアレンジも取り入れて会場を熱狂させたあとは、最新アルバムに収録されているバラード曲「5%」を披露。長谷川カオナシ(b)による叙情的なシンセ音が鳴り響く中、「どうせだったら一曲でも知らなかった曲を知ってほしいなと思います。一生懸命、少しでも残るように、“5%”でも残るように歌います」という言葉から続けられたこの楽曲は、スピード感だけに頼る必要のない、確かなバンドの底力を示していた。


 その後は「酉年だから、鳥を大事に生きていこうって思ってたんだけど、今日来る途中、車のフロントガラスに鳥がどーんってぶつかって、最悪だよ……」と話し、オーディエンスに苦笑いを浮かべさせるシーンもありながら、覚悟を決めたあとの哀愁と開放感に溢れる夏の歌「憂、燦々」、タイトルの通りステージに降り注ぐオレンジ色の照明で深みの増す「オレンジ」、音源よりもイントロを12小節伸ばすことで臨場感を増幅させた「社会の窓」と、フェスらしいキラーチューンを連発。この「社会の窓」の最後、語尾で音程を上げ、剥き出しの傷を舐めるように歌われた「愛してる」、あまりの暴力的な優しさに身を震わせた人も多いだろう。奇しくも喉の不調が完全にプラスの方向へと働いた場面でもあった。


<愛、ふがいない現実、だからクリープハイプがそこにいる>


 そしてラストは「HE IS MINE」。本来ならライブは全編通して観ていただきたいところだが、この曲のときだけ会場に駆けつける人たちの姿も、これはこれで一つの風物詩かもしれない。最後のサビ前にある「セックスしよう!」コールを誰もが待ちわびる中、2番のAメロでは「なんだ幕張こんなもんかよ」と煽り、Cメロの間奏では最後のMCとして口を開いた尾崎世界観。前回の【CDJ】では父と喧嘩したエピソードを明かしていたが、この日はその父・マサルが来場しているという。「お父さんの前でこんなことを叫ばせていいんだろうか……いやでも、マサルがそれをしたから俺がここにいるわけだし、なによりフェス童貞を奪うにはぴったりなんじゃないでしょうか。みなさん、マサルを男にしてやってください。よろしくお願いします」


 ヒッピー・ムーブメントの「セックス、ドラッグ、ロックンロール」も、ハードコア・パンク・シーンの「ストレート・エッジ」も、根底には人権の保護や平和への願いがありながら、盲信者による乱闘を引き起こすことも多かった。上手くいかないのだ。やはり現実はふがいない。感性豊かな尾崎世界観が怒りや不満を溜め込むのも無理はないだろう。ただその負の感情がクリープハイプの音楽として昇華されればされるほど、彼らが自ら掲げているわけではない「ラブ&ピース」の瞬間が私たちにもたらされるのだから、このふがいなさも捨てたものではないかもしれない。正に「愛してない訳 無いけどさ」。2016年、クリープハイプが最後に放ったこの言葉が相応しい。


テキスト:佐藤悠香


◎クリープハイプ【COUNTDOWN JAPAN 16/17】セットリスト
会場:東京・幕張メッセ国際展示場「EARTH STAGE」
日時:2016年12月30日(金)13:15~
1. イノチミジカシコイセヨオトメ
2. エロ
3. 百八円の恋
4. 鬼
5. 5%
6. 憂、燦々
7. オレンジ
8. 社会の窓
9. HE IS MINE


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