【プレイバック2016】ロック・バンド不遇の時代にオルタナティヴな感性を引き継ぐソロ・アーティストたち
【プレイバック2016】ロック・バンド不遇の時代にオルタナティヴな感性を引き継ぐソロ・アーティストたち

 米ビルボードのイヤー・エンド・チャート「200 ALBUMS」を見てみると、ロック/オルタナティヴ・バンドによるチャート・アクションは23位のパニック!アット・ザ・ディスコ『Death of a Bachelor』が目立つくらい(トウェンティ・ワン・パイロッツやコールドプレイの2015年作は引き続き上位にランクイン)。残念ながら2016年も、バンド・アクトにとっては厳しい結果となった。

 ただ、初のアルバムをリリースしたニュージャージーのチャーリー・プースや、2015年末に発表したアルバムが注目を集めたオーストラリア出身の内省的なエレクトロ・ポッパー=トロイ・シヴァンのように、若く才能溢れるシンガーソングライターたちはその作品の力を持って、しっかりと足跡を残していた。

 その昔、作曲家に楽曲を依頼することも、セッション・ミュージシャンを雇うことも経済的に難しかった若者たちは、それならば、と自分たちで楽曲を生み出し、バンドを組んだ。ところが、DJカルチャーやデスクトップ・ミュージック技術が発達した今日、優れたソングライターたちは一人で楽曲を生み出し、インターネット上に公開することが出来る。バンド文化が劣っているというよりも、テクノロジーを利用した方が手っ取り早く世に出やすい、という構造があるわけだ。

 思えばこの2016年、そのキャリアの中で幾つものバンドマンとしての物語を紡いできたデヴィッド・ボウイは、先鋭的なジャズ・ミュージシャンたちの手を借りることで、この世を去る間際の傑作『★』を残した。ジェイムス・ブレイクは大作『The Colour In Anything』の中で、ありとあらゆるサウンドを駆使して強烈な感情表現を行った。また、ジャスティン・ヴァーノンのソロ・プロジェクトとしてスタートしたボン・イヴェールは、グループ史上もっともエレクトロニック色の強い『22, A Million』の混沌としながらも壮麗なハーモニーの中で、“自分と世界”を鮮やかにデザインしてみせた。

 前述のパニック!アット・ザ・ディスコも、現在は実質的にブレンドン・ユーリーのソロ・プロジェクトとなっている。現在の米国で随一の人気バンドであり、先頃ミュートマスとのコラボEPをリリースしたトウェンティ・ワン・パイロッツは、もともと2マン・バンドといういびつでスリリングな編成だ。バンドという表現フォーマットは今や、新しい才能とヴィジョンの持ち主が“選ぶ”ものになってきているのである。

 そんな2016年、個人的に興味深かったのは、ソロ・アーティストのままバンド・サウンドを描き出してしまう、ワンマン・バンドの活躍だ。まずはノースロンドン出身のジェイコブ・コリアー、22歳。ジャジー&ソウルフルなマルチプレイヤーであり、アルバム『In My Room』が素晴らしかった。一人きりの多重演奏ライヴからオーケストラとのコラボまでこなす、閉じているんだかオープンマインドなんだか分からない個性もユニークなアーティストだ。作り込まれたインターネット動画の数々も人気。

 そしてこちらも英国、バッキンガムシャー出身のジャック・ガラット。デビュー・アルバム『Phase』を携えてのフジロック来日を果たしたが、オーディエンスを瞬く間に熱狂の坩堝へと叩き込むステージには本当に驚かされた。右手と足元で強烈な生ビートを刻み、左手でサンプラーを操作。ギターやピアノもガンガン奏でるという、極めて現代的なエンターテイナーだ。こういったフレッシュでパワフルなアクトに、バンド勢がどう渡り合ってゆくのか。2017年も注目していきたい。(Text:小池宏和)