野宮真貴 “サウンドトラック渋谷系”を掲げたビルボート東京公演レポート 「2020年のオリンピックで『東京は夜の七時』を歌いたい」
野宮真貴 “サウンドトラック渋谷系”を掲げたビルボート東京公演レポート 「2020年のオリンピックで『東京は夜の七時』を歌いたい」

 デビュー35周年を迎えた“渋谷系の女王”野宮真貴によるツアー【野宮真貴、渋谷系を歌う -2016-。“男と女”】。その東京公演が、11月11日と12日にビルボードライブ東京にて開催された。

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 今年8月には“フレンチ渋谷系”をテーマにした最新アルバムを、また、エッセイ『赤い口紅があればいい』(幻冬舎)を発売した野宮。また、【リオデジャネイロ・パラリンピック】閉会式では、ピチカート・ファイブ時代からの彼女の代表曲である「東京は夜の七時」が使われる等、今年も精力的な活動によって話題に事欠かない。そして、大阪、名古屋と続いてきた今回のツアーは、そんな野宮の2016年の集大成でもある。この日のライブは、その充実感を感じる内容だった。

 “渋谷系スタンダード化計画”を掲げ、毎年、東阪ビルボードライブを含むツアーを開催している彼女。そして、このビルボードライブ・ツアーは、彼女の音楽だけでなく、食事やドリンク、衣装、そしてライブの細部に至る演出まで、野宮真貴というアーティストが作り出す一つの世界に酔いしれることの出来る場でもある。

 そんな野宮が今年掲げたテーマは“サウンドトラック渋谷系”。渋谷系のルーツの一つと言える映画サントラの楽曲を中心に構成するという新たな試みだ。入場時には当日のセットリストを詳細に解説した、このツアーのための特製ライナーノーツも観客に配られ、もちろん、野宮プロデュースによる特製カクテルも用意。細部まで演出された贅沢な時間に、観客は胸を踊らせながら開演を待った。

 定刻になり、いよいよバンドと野宮が登場。例年通り、ギャルソン・スタイルで登壇したバンド・メンバーは、石田純(ベース)、平里修一(ドラム)、真藤敬利(ピアノ)、スパム春日井(パーカッション、キーボードなど)という鉄壁の布陣。野宮は、まずブラックのロングコートをまとってステージに現れた。ライブ一曲目は、早速お待ちかねの「東京は夜の七時」。こちらも毎年恒例だが、この一曲目に限っては客席からの撮影も許可され、この日、この場に集った喜びを皆でシェアしようという思いが、心躍る名曲の響きとともに拡がって行く。

 そして2曲目「双子姉妹の歌」からは、いよいよ“サウンドトラック渋谷系”の本編に突入。ミュージカル映画『ロシュフォールの恋人たち』、のオープニング・テーマとして知られる同曲は、由紀さおり&安田祥子姉妹によるレアな日本語バージョンで。華やかでエレガントなだけでなく、圧倒的な知識とセンスに裏打ちされた、こうした選曲と演出は、野宮のライブの大きな魅力でもある。

 3曲目からは、ビージーズ「メロディ・フェア」(『小さな恋のメロディ』主題歌)、「ラヴ・スコール」(『ルパン三世』第2シリーズ、エンディング・テーマ)、「哀しみのアダージョ」(『悲しみのヴァイオリン』主題歌)の日本語版「彼と彼女のソネット」(原田知世:歌、大貫妙子:詞)と続き、巧みな演奏と華やかで透明感あふれる野宮の歌声が、サウンドトラック特有の情感豊かな景色を、ビルボードライブに描き出していく。

 中盤、「Topless Party」(『天国か地獄か』劇中曲)のイントロをバンドが演奏する、野宮はこの日のためのオリジナル・カクテル「True Love」を紹介(なんと、彼女自身がプロデュースしたというハーブ・ティーがベースになったカクテル!)。その流れで「喉が乾いてきたので乾杯しませんか?」と客席に呼びかけ「ギャルソ~ン!」とステージ袖に向かって声を掛けると登場したのは、ヘアメイクの富澤ノボル。こちらも毎年恒例だが、今年も富澤と野宮によるトークで、飲み屋のグッズやCD等が紹介される。二人の軽妙な掛け合いに観客がすっかり和んだ後、ピンクフェザーのフリンジ・ドレスに変身した野宮は、そのまま軽快なビートに乗せて「Topless Party」を歌唱。おしゃれな渋谷系イタリアンサウンドトラックに観客も心地良く体を揺らした。

 その後は、フリッパーズ・ギターの「恋とマシンガン」、松任谷由実の「ルージュの伝言」と、“渋谷系”だけでなくJ-POPの歴史においても重要な曲のカバーが続く。そして、終盤に披露されたのが小泉今日子の「怪盗ルビイ」。演奏前、野宮の「作詞作曲は、私たちの誰もが尊敬して止まない大瀧詠一さんです」という紹介に、客席からは大きな拍手が送られた。

 本編ラストは、最新アルバム『男と女~野宮真貴、フレンチ渋谷系を歌う。~』でも披露された、「東京は夜の七時」と並ぶ待ち合わせソング(野宮談)、「渋谷で5時」。そしてアルバムタイトル曲であり小西康陽による日本語詞も印象的な「男と女」を披露。アルバムでは横山剣と歌唱した1曲だが、この日は野宮の独唱によるスペシャル・バージョン。しっとりとした曲の間奏部では、ステージ後方のカーテンが開き、六本木の夜景が目前に広がる。静けさと華麗さが溶け合うような、見事なパフォーマンスとなった。

 観客がその感動の余韻に浸りながら、行われたアンコール。1曲目は、今年最大のサプライズの一つであった、BEAMS 40周年企画でも披露された「今夜はブギーバック」のカバー。そしてそこから雪崩れ込むように、ピチカート・ファイブのメドレーを披露する。しっとりとした「男と女」とはうって変わり、アンコールに相応しいパーティー・モードで、観客も思わず立ち上がりダンスで応える。「HAPPY SAD」や「トゥイギー・トゥイギー」といった名曲の連続に会場の雰囲気も最高潮に。ラストは「ウィークエンド」。金曜日と土曜日に開催され、週末の高揚を湛えた今回のツアーにぴったりの選曲で、充実のステージを締めくくった。

 昨年に続き、今年も「還暦はビルボードライブで歌うこと」が目標だとMCで語った野宮。さらに今年は「2020年のオリンピック会場で『東京は夜の七時』を歌ってみたい」と新たな夢を語り、ファンに大きな希望を与えた。それが単なる夢物語でないことは、この日のライブが証明していた。

写真:KAMIIISAKA HAJIME

◎公演情報
【野宮真貴、渋谷系を歌う -2016-。“男と女”】東京公演
2016年11月11日(金)・12日(土)<終了>

(セットリスト)
01. 東京は夜の七時
02. 双子姉妹の歌
03. メロディ・フェア
04. ラヴ・スコール
05. 彼と彼女のソネット(哀しみのアダージョ)
06. Topless Party
07. 太陽の下の18才
08. 恋とマシンガン
09. ルージュの伝言
10. 怪盗ルビイ
11. 渋谷で5時
12. 男と女
En-01. ピチカート・ファイブ・メドレー
En-02. ウィークエンド