“ヒップホップのネクスト・ステージ”を存分に味わわせてくれたDJ プレミア。スクラッチとバンドがせめぎ合うハイ・テンションでファンキーな70分。
“ヒップホップのネクスト・ステージ”を存分に味わわせてくれたDJ プレミア。スクラッチとバンドがせめぎ合うハイ・テンションでファンキーな70分。

 Make Some Noise!! What’s Up Tokyo?――バンドと一緒にステージに上がった途端、エッジの立ったスクラッチを繰り出しながら、ハイ・テンションで観客を煽るDJ プレミア。カリスマティックなオーラを放つ、その圧倒的な存在感。まさに“ヒップホップ・レジェンド”にふさわしい自信に満ち溢れたステージ・マナーに、一瞬にしてオーディエンスは釘づけになった。

 「みんな、スパイク・リーのフィルム『モ・ベター・ブルーズ』は知っているかい?」――こう観客に問いかけながら、初っ端からギャング・スターの「ジャズ・シング」を放ち、会場の空気はいきなりピークに達する。

 鋼のようにタイトなリズム、無音部分までビートとして聴かせるテクニック――1990年代に今は亡きグールーと組んだユニット=ギャング・スターで一挙メジャー・シーンに躍り出たDJ プレミア。ニュースクール時代以降、プロデューサー=プリモとしてジェルー・ザ・ダマジャやナズ、ノトーリアスB.I.G.など、旬のヒップホップ・アーティストと数々の名作をモノにしてきた彼が、昨年1月の公演以来となる生バンドを率いて『ビルボードライブ東京』のステージに登場した。

 常々「予想を裏切るようなネタでトラックを作りたい」と公言しているDJ プレミア。今回は「ナズ・イズ・ライク」や「ダ・ビッチィズ」といったクラシック・ナンバーを生きたビートで再生させ、ヒップホップがファンクやソウルと地続きであることを改めて“証明”するかのようなステージを、ザ・バッターと名付けた6人編成のバンドを従えて行うライブ。この夜のパフォーマンスには、“ヒップホップのネクスト・ステージ”がたっぷり表現されていた。

 スクラッチとバンドのせめぎ合いによるタフなビートとドープなリズム。とびきり筋肉質なサウンドを惜しげもなく繰り出してくるDJ プレミアのターン・テーブル・スキルが、会場の空気を限りなくファンキーに塗り替えていく。頻繁に繰り広げられる擦りとバンド演奏の掛け合いは、さながらフリー・ジャズのインプヴィゼイションの趣き。ストリートの空気を再現したかのようなザラついたサウンドは、ヒップホップが内包する、既成概念から逸脱していくアティテュードを遺憾なく表現する。そんなエキサイティングな瞬間が矢継ぎ早に訪れたステージ。

 DJ プレミアの代表的なナンバーが新しい命を吹き込まれながら次々に鳴り響き、オーディエンスとのコール&レスポンスが熱く繰り返される。その高揚感の心地好さと言ったら! まさに音楽がクリエイトされる現場に居合わせていることが実感できるのだ。ラッパーやシンガー、そしてホーン・セクションを含む6人のバンドはDJ プレミアが紡ぎだすビートにフィジカルなリズムと尖ったフレイズを被せてくる。終盤にはバンドが引き下がってプレミアが1人でマックを操り、ターンテーブルを擦りながらギャング・スターのナンバーをプレイし、グールーへの友情を吐露するシーンも。これぞ美しきヒップホップ・カルチャー。

 アンコールこそなかったものの、とにかく濃密だった70分のステージ。早い再来日を期待せずにはいられないエキサイティングなパフォーマンスに、すっかりやられてしまった夜になった。

 この熱いライブは今日(21日)も観られる。絶対に逃したくないエポック・メイキングなステージの目撃者になれる貴重なチャンス! 台風なんか吹き飛ばして、ぜひ、会場に足を運んで。

◎公演情報
DJプレミア with SPECIAL BAND
featuring Brady Watt, Lenny Reece,Torii Wolf, Mark Williams, Jonathan Powell

ビルボードライブ大阪 2016年9月19日(月)
ビルボードライブ東京 2016年9月20日(火)~21日(水)
Info: www.billboard-live.com/

PHOTO:Yuma Totsuka

TEXT:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。ようやく秋の気配がしっかりしてきたこのごろ。こんな時期は旬の秋魚と、日本発の国際品種=甲州種で造った白ワインをぜひとも堪能したい。ほのかな吟醸香が感じられる甲州種のワインは和食との相性がバツグン。シュールリー製法によって実現した“旨み”豊かでデリケートな味わいは、繊細な料理を一層、引き立ててくれる。まずは、山梨の『ルバイヤート』や『グレイス』などの定番から試してみるのがオススメ。ワインと和食の新しい世界が体験できること間違いなし!