東京バレエ団「ラ・シルフィード」が間もなく開幕、「作品や役が醸し出す“香り”を大切にして“表現”を磨き上げたい」
東京バレエ団「ラ・シルフィード」が間もなく開幕、「作品や役が醸し出す“香り”を大切にして“表現”を磨き上げたい」

 東京バレエ団が、間もなく開幕する「ラ・シルフィード」のリハーサル見学会と記者懇親会を4月19日に東京、目黒の東京バレエ団スタジオで行った。

 リハーサルでは第1幕を、4/29に主演する渡辺理恵、宮川新大らが、第2幕を4/30主演の沖香菜子と松野乃知らが踊り、2つのキャストが披露された。第1幕、妖精にふさわしい軽やかさと無邪気な魅力を備え、艶やかな美しさも加わった渡辺理恵は、まさに人間界に紛れ込んだシルフィードそのもの。ジェイムズ役の宮川新大は、機敏なバットリーやブレのない回転など、力強い動きを繰り出していく。彼らにエフィー役の吉川留衣を加えた第1幕のハイライト、“オンブル”のパ・ド・トロワは、各人が個性を際立たせながらドラマティックな場面を生み出していた。

 また、第2幕では、この3年で多くの主演経験を重ねた沖香菜子による機敏で意志的な動きと蠱惑的な表情が印象的で、あたりの空気を引き寄せていく。甘く優しい雰囲気を漂わせる松野は、長身を生かした伸びやかな跳躍が目を引き付ける。沖に誘われ松野が追いかけていく2人の踊りは、仔犬どうしが戯れるような微笑ましさ。そしてソリストや群舞などシルフィードたちの美しい踊りがつづく中、斎藤友佳理から「そろえるのは素晴らしい。でも、もっと温かく。それぞれが個性を出して!」と、鋭い指導の声が飛んだ。浮遊感と優美さだけでは足りない、ぬくもりを感じさせる妖精を踊るというのが芸術監督の要求だ。

 「ラ・シルフィード」はダンサー斎藤の十八番と称えられた演目。彼女はのちにモスクワ音楽劇場で本作の振付家ピエール・ラコットのアシスタントを務め、3年前の東京バレエ団公演でも指導にあたった。その後の懇親会では、斎藤友佳理芸術監督が「この作品はダンサーとしても指導者としても私の原点」と紹介。「ラコットさんはこの作品の“香り”を伝えてほしいとおっしゃっていた。彼は常々、5番ポジションを正確にとり、上体を前傾姿勢にするよう注意していました。ロマンティック・バレエの香りはここから生まれるのです」と続けた。そして、出演者の渡辺理恵は「ラ・シルフィードは、登場時と死ぬ直前に同じ印象的なポーズをとる。その間を貫くジェイムズへの想いを役作りのポイントと考えています。2度目のシルフィードですが、宮川君という新しいパートナーを得て緊張感をもって取り組んでおり、日々リハーサルでステップアップしている手応えを感じています」と述べた。パートナーの宮川新大は、昨年夏に入団。モスクワ音楽劇場バレエ在籍当時、「ラ・シルフィード」のリハーサルで斎藤と出会い、それが入団のきっかけになった。宮川は「この作品で主演デビューすることに運命を感じています。全幕の主役を演じるには多くを要求され、毎日が勉強ですが、表現を磨いて大人のダンサーになりたいと思っています」と意気込みを述べた。

 3年前につづいて主役のシルフィードを踊る沖香菜子は、「見たあとにお客さまが“妖精の世界を訪れた”と思ってくださるように、シルフィードがもつ空気感を大切にして、自分だけのシルフィードを演じたい」、そして、同じく3年前に初めてジェイムズを踊った松野乃知は、「この3年間に自分の中で大きな変化があった。同じ役を演じていても感じ方が違っている。作品の中でジェイムズとして、シルフィードやほかの人たちと会話を交わすのを楽しみにしています」と語った。「この作品で大切にしていることは?」との問いには、4人全員が、作品や役が醸し出す“香り”を大切にして“表現”を磨き上げたいと語り、芸術監督のめざす高みを彼らが共有していることを感じさせた。photo by Nobuhiko Hikiji

◎公演概要【東京バレエ団「ラ・シルフィード」
4月29日(金・祝)2:00p.m. ラ・シルフィード:渡辺理恵/ジェイムズ:宮川新大
4月30日(土)2:00p.m. ラ・シルフィード:沖香菜子/ジェイムズ:松野乃知
会場:東京文化会館