中村八大をトリビュートした「21世紀の『上を向いて歩こう』」が開催 大友良英がバンドや歌い手たちと表現したこととは?
中村八大をトリビュートした「21世紀の『上を向いて歩こう』」が開催 大友良英がバンドや歌い手たちと表現したこととは?

 2015年11月3日、神奈川は横浜市のKAAT 神奈川芸術劇場にてライブイベント【21世紀の『上を向いて歩こう』】が行われた。日本の音楽史に大きな足跡を残した「上を向いて歩こう」と、その作曲家である中村八大。その音楽と功績を、中村八大の子息である中村力丸の総合プロデュースのもと、佐藤剛が演出、さらに大友良英が音楽監督をつとめる制作陣によって、21世紀現在のリスナーに伝えようという意図によるイベントだ。

【21世紀の『上を向いて歩こう』】ライブ写真一覧

 実際のイベントは大友良英が率いるスペシャルバンドがホストバンドとなり、二階堂和美、Little Glee Monster、福原美穂というヴォーカル陣が代わる代わる中村八大の名曲や代表曲を歌うというもの。「Young person’s guide to ‘Hachidai-san’」という副題も冠され、当日は親子連れなども含む幅広い年代が会場に集った。

 ライブは中村八大がジャズ演奏家として1960年に残した「メモリーズ・オブ・リリアン」の音源からスタート。その演奏をバックに大友良英スペシャルバンドの面々が登場する。編成は大友がエレクトリックやアコースティックのギターをつとめる他、江藤直子(p)、近藤達郎(org, key)など、いわゆる“あまちゃんスペシャルビッグバンド”のメンバー、さらに類家心平(tp)らを加えた9人組。大友は「中村八大さんの色んな側面に光を当てながらお送りしたいと思います。」と意気込みを語った。

 「一曲目で『ん?』と思った人も帰らないで下さいね(笑)」という前置きに続き、ライブのスタートを飾ったのは「上を向いて歩こう」。ハーモニカの奏でる切なげなメロディから始まり、続いてフリージャズのような怒涛の演奏に入る。小林武文のドラムスや大友のギターが唸りを上げる中、トランペット、サックス、トロンボーンのホーン隊が主旋律を引き継ぎクライマックスを作った。

 その演奏中、予告のように、中村八大と『夢であいましょう』の看板の写真がバックスクリーンに映し出される。「上を向いて歩こう」の演奏後、間をあけずに、バックスクリーンのさらに奥の改段から、二階堂和美がライトアップされて登場。そのまま名曲「夢であいましょう」の演奏に移る。二階堂は歌いながらステージ後方より花道を進み、大友たちが待つステージの前列へと歩みを進める。星のようにゆっくりをまたたく電飾も、その柔らかい歌のイメージを増幅した。

 MCパートでは、「父親が『夢であいましょう』が大好きで観ていた」という二階堂と大友が、次々とスクリーンに移される中村八大の写真を見ながら歓談。放映当時、毎月1曲、新曲を作っては番組で生放送で発表していたという中村らのエピソード等にも触れた。さらに、スクリーンに当時の美輪明宏が同番組に出演した際の写真が映され、その話題と大友による「今だったら下北のアングラ劇場でやっててもおかしくない」という解説を導入に(ジャズ名曲「テイク・ファイブ」を下敷きにした)「誰も~あいつのためのスキャットによる音頭」が、二階堂のヴォーカルで披露された。

 二階堂と交代で登場したのはリトグリことLittle Glee Monster。登場するや、中村八大も影響を受けたというザ・ビートルズの代表曲「イエスタデイ」をアカペラを披露した。中村八大楽曲への取り組みでは、メンバーの数人が合唱コンクールの課題曲として歌ったことがあるという「涙をこえて」をアップテンポな8ビートのアレンジに合わせて歌唱。さらに「遠くへ行きたい」をこのグループらしくアカペラで歌い切った。大友はその歌声を賞賛しつつ「(自分の)孫でもおかしくないのか…」と複雑な感情もにじませた。

 リトグリの退場後、今度は福原美穂が登場。レゲエ・アレンジの北島三郎「帰ろかな」を披露すると、福原のソウルフルの歌と、演歌の特有のメロディがぶつかる、エキゾチックなムードで観客を魅了した。さらに中村八大と江利チエミという黄金コンビによる「私だけのあなた」、そして今年英国歌手のオリー・マーズが歌唱し、オノ・ヨーコが訳詞を手がけた「上を向いて歩こう」の英語詞版「Look At The Sky」も披露、この日2回目の「上を向いて歩こう」に、会場も更に盛り上がった。

 福原の退場後はもう一度、二階堂和美が登場し「黄昏のビギン」を歌唱。大友はこの曲の作詞にまつわるエピソード(作詞は永六輔となっているが、実は中村八大がほとんど作詞を手がけたということ)に触れつつ、それでもなお、2人がチームで作曲していたことの重要性を主張。「(みんなで作ってるものだから曲が)一人の世界じゃない」と、その魅力を説明した。

 その後は再びリトグリ、福原も登場し、全員で元のアレンジに近い形で「明日があるさ」を演奏。二階堂、リトグリ、福原がヴォーカルをリレーで繋ぎ、サビのパートでは客席にも参加を呼びかけた。そして本編最後は「太陽と土と水を」。大友が「日本の音楽史上に残るすごい曲」と絶賛する同曲は、当時ネパールから帰って来たばかりの中村が現地で受けたインスピレーションによって作った曲とのこと。中村八大自身の歌唱によるライブ録音バージョンも残されている同曲だが、この曲に限っては大友がメインヴォーカルを取り、観客も手拍子で参加。自由で開放的なエネルギーの溢れる演奏となった。

 アンコールでは、大友が登場するやいなや「何も考えていなかった」という衝撃発言。とりあえず(この日3回目の)「上を向いて歩こう」を演奏することだけ決めると、急遽その場で公開リハーサルのようなことを始める。繰り返しの回数や、中盤の口笛パートを誰が担当するかを決め(結局リトグリの2人と口笛の出来る観客が担当になった)、「なんとかなるでしょう!」という意気込みで演奏をスタートした。

 その演奏は慌ただしいものだったが、そのドタバタまで含めて、おそらくは『夢であいましょう』の中村八大の音楽に大友が聴きとった熱気を、そこで再現しようとしていたのだろう。結果的に、アンコールは大いに盛り上がり、大友がそのドサクサで「来年もまたやりますー!」というNHKらしい(?)オチの宣言までつけて締めくくった。レジェンドの功績をただなぞるだけではなく、本当の意味でそれにインスパイアされた音楽を奏でようという志の高い試みを行った今回のステージ。次回があるなら最高に愉快だ。そんな気分にさせてくれるイベントだった。

文:佐藤優太

◎イベント概要
【21世紀の『上を向いて歩こう』】<終了>
2015年11月3日(火・祝) KAAT 神奈川芸術劇場
開場:14時30分 開演:15時