Album Review:まるでレコーディング現場にいるような生々しい臨場感をもたらす、ボブ・ディラン「ブートレッグ・シリーズ」最新作
Album Review:まるでレコーディング現場にいるような生々しい臨場感をもたらす、ボブ・ディラン「ブートレッグ・シリーズ」最新作

 1991年にスタートしたボブ・ディランのブートレッグ・シリーズは、そもそもアウトテイクやライヴのブートレッグを公式音源としてリリースする意図があったが、彼のキャリアが深まるにつれ、またシリーズ作品が次々リリースされるにつれ、より歴史的に重要な資料アーカイブとしての性格を帯びてきている。

 昨年のシリーズ第11弾『The Basement Tapes Complete』は、後にザ・バンドを結成する面々との地下セッションを網羅するという内容だったが、今回の『The Cutting Edge 1965-1966』は、それよりも時期を遡り、『Bringing It All Back Home』(1965年)、『Highway 6i revisited』(1966年)、『Blonde on Blonde』(1966年)といった、いわゆるフォーク・ロック確立期のレコーディング・セッションを追う内容だ。

 先にリリース形態を紹介しておくと、CD6枚組のデラックス・エディションは計111トラックを収録し、その中からハイライトを厳選したスタンダード・エディションはCD2枚組で36曲を収録。筆者はデラックス・エディションに触れてそれでも濃い内容だったのだが、5000セット限定の18CD+ブックレット同梱、コレクターズ・エディション(既に完売)も存在する。

 各世代からトラックが選ばれたシリーズ第1~3集や、ドキュメンタリー映画と連動したシリーズ第7集『No Direction Home:The Soundtrack』といった既発作品との重複も少々含まれるものの、まるでレコーディング現場に居合わせるような生々しい臨場感は堪らないものがある。例えば、デラックス・エディションの冒頭ではディランが「Love Minus Zero/No Limit」のテイクを次々に重ね、「Bob dylan’s 115th Dream」を歌い出したかと思えば、唐突に吹き出して止まらなくなってしまったりする。ディドリー・ビートを採用した「Outlaw Blues」のオルタネイト・テイクなども、実に興味深い。

 膨大なテイクを残したという「Like A Rolling Stone」の関連トラックは20にも及び、ワルツ風のフォーク・ロック・アレンジで切り出されるリハーサルから、よりアップテンポな演奏を試みようとするテイク、4つのパート別完成トラックに至るまで、真剣に聴き入ってしまうものばかりだ。こうして聴き比べてみると、ヘヴィネスと衝動がしっかり吹き込まれたテイク4が正式採用されたことも合点がいく。

 このセッションに忍び込んだセッション・ギタリストのアル・クーパーが、マイク・ブルームフィールドのギター演奏に打ちのめされつつ、専門外のオルガン演奏を残したのは有名な話だ。それでも、60年代末にアルとマイクは名セッションの数々を生むことになるのだから、運命の悪戯とは面白いものである。フォークの旗手からロック・アーティストに転身したディランは保守層の反発にも晒されたが、この時期の作品が無ければ今日のロックは存在しなかった。極めて貴重で、それ以上に刺激的な記録である。(Text:小池宏和)

◎リリース情報
『ザ・カッティング・エッジ1965-1966(ブートレッグ・シリーズ第12集)』
CD6枚組デラックス・エディション(完全生産限定盤)
SICP-30591~6 20,000円(tax out.)
iTunes:http://apple.co/1FxmNLj

『ザ・ベスト・オブ・カッティング・エッジ1965-1966(ブートレッグ・シリーズ第12集)』
SICP-30597~8 3,600円(tax out.)
iTunes:http://apple.co/1OWwhSF
※いずれも日本盤は、BSCD仕様/対訳付/英文ブックレット完全翻訳日本版ブックレット付