タイラー・ザ・クリエイター、1夜限りの来日公演で魅せた諧謔と夢想と暴力衝動の入り混じるステージ
タイラー・ザ・クリエイター、1夜限りの来日公演で魅せた諧謔と夢想と暴力衝動の入り混じるステージ

 9月14日、LA出身のラッパー、タイラー・ザ・クリエイターが最新作『Cherry Bomb』を引っさげた来日公演を東京・LIQUIDROOMにて行った。

タイラー・ザ・クリエイター ライブ写真一覧

 開場時、入場者全員にオリジナルのお面が配られ、どこかお祭りのような雰囲気もあったこの日のライブ。自身がリーダーをつとめるヒップホップ・コレクティブ=OFWGKTAとともに、本国ではすっかりスーパースターとなった彼が、この規模の会場でライブするとあって、会場には多くの外国人の観客も詰めかけていた。

 えも言えぬ期待感がフロアに溢れる中、定刻を20分以上押して(もちろん、誰も時間通りに出てくるとは思っていない様子だったけど)いよいよアーティストが登場。まず、DJ TACOが先導し、アフロ・ビートからサンプルしたと思われるファンキーなリズムが掛かる中、サポートのジャスパー・ドルフィンとタイラー本人が続いてステージに表れた。自身のアパレルブランド<Golfwang>を展開することでも知られるタイラーだが、この日は黄色地に“GOLF”と書かれた同ブランドのTシャツ姿だ。

 一曲目は『Cherry Bomb』でもオープナーを飾る「DEATHCAMP」。先に鳴っていたアフロ・ビートと入れ違いにイントロの4音が鳴り響き、続くスウィンギングでアップテンポなビートに合わせていよいよその力強いラップがスタートする。単純なラップスキルより、むしろアジテーターとしての才覚に抜きん出たもののあるタイラーだが、この日もその圧倒的な迫力は健在で、ただでさえ期待感にはち切れそうなフロアが、更に、更に、とアガっていくのが印象的だった。

 ライブをみていて改めて新鮮だったのは、その音楽的な語彙の豊富さ。もちろん、PCから流れるトラックのみを伴奏とした、いわゆるトラック・ショーの形態ではあるものの、(初期からお得意の)スクリューものを昇華したようなビートの「Sam Is Dead」等の曲や、ジューク並みの高BPM&エディットが楽しい「RUN」など、ビートの種類が実に多彩。さらに思い切った展開が印象的な「Tamale」や、メロウな「Fucking Young」など、メロディアスな楽曲も挟むことで、夢見がちな少年性も垣間見せ、諧謔と夢想と暴力衝動が混在した独自のステージングを披露した。

 一方、曲間の力の抜けたMCのやり取りも印象的で、中盤ではフロアを左右で二つの“チーム”に分け、コール&レスポンスの声の大きさで勝敗を競わせたり(aikoとかがよくやるアレ)、タイラーが「いま、この子がジャスパーより俺の方がクールだって言ったけど、そんなことないよ。ジャスパーの方がクールさ!」とエセ自虐MCで観客に絡んでジャスパーのツッコミを受けたりと、客席も巻き込んだ話芸も次々と披露し、会場の笑いを誘っていた。

 終盤、「次で最後の曲だよ」タイラーがMCし、自らが着ていたTシャツを客席に投げ込むと、それを巡ってフロアでひと騒動起きる場面も。そんな様子も意に介さず、タイラーは「KEEP DA O'S」が流れる中、フロアに降りて次々と観客とハイタッチを交わし、サッとステージを去っていった。終演後のフロアの雰囲気は異様にハイでドライ。“感動”みたいな湿っぽい言葉からは何億光年も離れた場所で、それでも高揚を描き出す力の確かさに、改めて迫力を感じるステージだった。

Photo:Masanori Naruse

◎公演情報
【TYLER THE CREATOR】
2015年9月14日(月)東京・LIQUIDROOM
19時開演