EP Review:FKA Twigs『M3LL155X』 異形を保ったまま、より広く浸食を試みる最新のソウル・ミュージック
EP Review:FKA Twigs『M3LL155X』 異形を保ったまま、より広く浸食を試みる最新のソウル・ミュージック

 今年1月の単独来日公演に続いて、【FUJI ROCK FESTIVAL’15】出演を果たしたFKAツイッグスのステージは、真に衝撃的なものだった。先鋭的なベース/ビート・ミュージックを奏でるバンド(パッド・コントローラーをスティックで打ち鳴らすサウンドは、強烈な躍動感に満ちている)をバックに、終始官能的でありながらもどこか潔癖なダンスを舞い踊りながら、FKAツイッグスが歌う。そのトータル・パフォーマンスはひたすらにエモーショナルで、いたずらに実験的というよりも、ダイレクトにオーディエンスの胸を揺さぶる最新のポップ・アートに他ならなかった。

 そんなUK発の才媛=FKAツイッグスが、この8月14日に急遽、新たなEP作品『M3LL155X』(読み:メリッサ)をダウンロード・リリースした。フジロックで披露された「Figure 8」や「In Time」、「Glass & Patron」を含め、計5曲が収録されている。『EP2』やアルバム『LP1』のプロデュースで大きなインパクトをもたらしたヴェネズエラ出身のアルカ(カニエ・ウェストやビョーク、アルカ名義のソロと、話題作を次々に手掛けている)は参加していないものの、あの命の軋みを伝えるような異形のエレクトロニック・ノイズにまみれたFKAツイッグスのソウル・ミュージックは、今回も大筋において踏襲されている。

 「Figure 8」、「Glass & Patron」そして「Mothercreep」の3曲をFKAツイッグスと共同プロデュースしているのは、ブーツことジョーダン・アッシャー・クルーズ。ビヨンセの目下の最新アルバム(2013年)で数多くの楽曲を手掛け、自身も『Winter Spring Summer Fall』(2014年)でアルバム・デビューを果たしているアーティストだ。また「In Time」はFKAツイッグスと、ロンドンの若手シンガー・ソングライターであるジョエル・コンパス(こちらもアルバム・デビューを控えている)との共作曲。シーンの最先端を往くアーティストたちのコラボレーションにより、FKAツイッグスの異形のポップは異形を保ったまま、より広く浸食しようとしている。

 その先鋭的な芸術性の割に、静かな嫉妬心の情念を燃やす「I’m Your Doll」にしても、衝撃的なMVが製作され《私はまだセクシーに踊れているかしら?》と歌われる「Glass & Patron」にしても、FKAツイッグスがパフォーマンスへと身を投じる姿は極めて古典的で、今の一瞬にすべてを賭ける体当たりなものだ。表現衝動が古典的だからこそ、それに相応しい生々しさが最新テクノロジーによってもたらされているのかも知れない。27歳、まだまだ計り知れないポテンシャルを秘めているだけに、今後が楽しみなアーティストである。

〈Text:小池宏和〉

◎リリース情報
『M3LL155X』(読み:メリッサ)
2015/08/14 RELEASE
iTunes:http://apple.co/1JiHQ0A