Album Review:イヤーズ&イヤーズ『コミュニオン』 カジュアルさとは一線を画すスピリチュアルなエネルギーが渦巻くダンス・ポップ
Album Review:イヤーズ&イヤーズ『コミュニオン』 カジュアルさとは一線を画すスピリチュアルなエネルギーが渦巻くダンス・ポップ

 イギリス出身のオリー、トルコ出身のエムリ、オーストラリア出身のマイキーから成る3ピース・バンドのイヤーズ&イヤーズが、この7月にリリースしたデビュー・アルバム『コミュニオン』で全英チャートのトップに輝いた。フランスのインディー/ダンス・ポップ・レーベルであるキツネに在籍していた頃から注目を集めていたバンドだが、2014年にはメジャーのポリドールと契約。英BBCの“Sound of 2015”に選出され(過去にはミーカやアデル、サム・スミスといった顔ぶれが選出されている)、この2015年に入ってリリースしたシングル「King」が全英1位、続く「Shine」が2位と、目下快進撃の真っ最中といったところだ。

 待望のデビュー・アルバム『コミュニオン』は、“親交・信仰”を意味するタイトルからも伺えるように、スピリチュアルなエネルギーが渦巻くダンス・ポップ作だ。サウンドや歌詞はとてもナイーヴで繊細なのに、体験の共有を強く求めてくる感じ、とでも言えば良いだろうか。オープニング・ナンバーの「Foundation」では、《あなたは、私のためにすべてを分かち合うことが出来るか?》なんていう問いかけが込められていたりもする。カジュアルで華やかなダンス・ミュージックとは一線を画したイヤーズ&イヤーズのこの表現スタイルが、彼らを取り巻く新鮮な熱狂の礎となっているのかもしれない。

 緻密なエレクトロニカのマナーと、内面に強く訴えかけるUKソウル~UKガラージの文体が渾然一体となり、イヤーズ&イヤーズのダンス・ポップは構成されている。UKガラージの新たな後継者という意味ではあのディスクロージャーに通ずる部分があるかも知れないが、ディスクロージャーとイヤーズ&イヤーズとの最もシンプルで決定的な違いは、後者が外部ヴォーカリストの招聘に大きな意味を見出していない、ということだ。リード・ヴォーカリストを務めるオリーは、俳優としてのキャリアも持つ優れた美声の持ち主であり、昨年にはベル&セバスチャンのスチュアート・マードックが手掛けたミュージカルで歌ったりもしている。そんなオリーのアイコンとしての活躍が、イヤーズ&イヤーズの共同体としての磁場をより強力なものにしている気がする。

 アルバムの後半、激しく渦巻くような情熱で触れる者を惹き付ける「King」や「Desire」といったナンバーは、イヤーズ&イヤーズの音楽がもともと極めてジェントルで上質な感触をしているからこそ、特別な逃れ難さを発揮している。本当に末恐ろしいグループである。今夏はリーズ・フェスティヴァルやレディング・フェスティヴァルなど大型フェスにも引っ張りだこ。ブライテスト・ホープの座を欲しいままにしているが、ぜひ近いうちに、来日公演にも期待したいところだ。

[text:小池宏和]

◎リリース情報
『コミュニオン』
2015/07/10 RELEASE
輸入盤・配信
iTunes:http://apple.co/1eC38xx