Album Review: 正しく“代表作”として相応しいアウル・シティーの4thアルバム
Album Review: 正しく“代表作”として相応しいアウル・シティーの4thアルバム

 “アウル・シティー”という名前を世界に轟かせた、2009年のブレイク曲「ファイアーフライズ」。白い帆が水辺に浮かぶ、遠い夏を思わせるアートが印象的なアルバム『オーシャン・アイズ』や、石川遼氏が出演、ビールのCMに起用された、カーリー・レイ・ジェプセンとのデュエット曲「グッド・タイム」など、これまでの形跡をたどっても、[アウル・シティー=夏の風物詩]という定着は、免れない。

 ファルセットを交えた、しなやかで透明感あるアダム・ヤングのヴォーカルと、エレクトロなのにリラックス効果を醸すメロウネスが、そういった“季節の風景”を感じさせるサウンドにつながっている。これが、アウル・シティーの魅力であり、独特の世界観。

 『オーシャン・アイズ』のインパクトをそのままに、『ブライト&ビューティフル』(2011年)、『ザ・ミッドサマー・ステーション』(2012年)と、そのイメージ覆すことなく“景色を音楽で描く”、アート&ミュージックの同化に特化してきたわけだけれど、本作のジャケットが公開された時、「おや?」と…。突然、宇宙に放りだされ、これはアウル・シティーの新たなチャレンジなのか…と、若干戸惑った。

 しかし、箱を開けてみればアウル・シティー・エッセンスはそのままに、冒頭のタイトル曲から、その不安を取り除いてくれる安堵感に浸る。

 “アヴィーチー戦法”を起用した、[カントリー×エレクトロ]という試みを、カントリー本家=アロー・ブラックを招いてコラボする「ヴァージ」、ジャケ写の風景を漂わす、スペイシーな「アップ・オール・ナイト」と続き、スライドするように東京の夜景を駆け抜けるPVが印象的な、SEKAI NO OWARIとのコラボレーション曲「トーキョー」では、日本愛を彼らと掛け合うように歌う。

 一方、先行シングルとしてリリースされた「マイ・エヴリシング」では、ブリティッシュ寄りのオルタナティヴ・ロックを披露。ブリット・ニコールとのデュエットが美しい「ユーアー・ノット・アローン」や、「バード・ウィズ・ア・ブロークン・ウィング」のような、フォークやカントリーがベースになっている、デジタル感を抑えたオーガニック的サウンドもあったり、大きな方向転換はないものの、“アウル・シティーの次の章”を感じさせるテイストは、随所に表れている。

 この夏、名盤『オーシャン・アイズ』のリリースから6年目となる。「時の流れの速さに驚くばかりだ」とのコメントを残しているが、時の流れにただ、流されることなく、自身のポリシーと新旧のサウンドのブレンド、ヴィジョンを確立しているアウル・シティーは、常に新しい風を運んでくれる。

 約3年ぶりの新作『モバイル・オーケストラ』を引っ提げて、今年は【FUJI ROCK FESTIVAL '15】の出演が決定。あのサウンドと夏の夜を共にできると思うと、今から胸が高鳴るばかり。

Text: 本家 一成

◎リリース情報
『モバイル・オーケストラ』
アウル・シティー
2015/7/10 RELEASE
2,376円(tax incl.)