Album Review:ミューズ『ドローンズ』 王道ロック・サウンドで描かれた衝撃のコンセプト・アルバム
Album Review:ミューズ『ドローンズ』 王道ロック・サウンドで描かれた衝撃のコンセプト・アルバム

 一切誤解しようのないサウンドと言葉が、足すことも引くことも許されない全12トラックに詰め込まれている。UKの3ピース・バンドであるミューズが発表した通算7作目のアルバム『Drones』は、UK本国では5作連続の1位、USのBillboard 200では初めての1位を奪取した。その他各国チャート上でも数多く1位に輝き、絶賛を浴びているというところだ。なお今夏、ミューズは【FUJI ROCK FESTIVAL‘15】の2日目、7月25日にヘッドライナー出演することが決まっている。

 “ドローン”というフレーズの響きだけで、タイムリーかつ不穏なムードを受け止めるのは、我々日本に暮らす人も同様だろう。『Drones』のジャケット・アートワークには、部屋に籠って軍隊を操る者と、さらにそれを操る黒幕の巨大な手が描かれている。まるで古い名作SF小説のカバー・アートのようだが、アルバムの内容は間違いなく、今の現実社会に向けて訴えかけるものである。ドローンは本来、無人機/無線操縦機を意味する言葉だが、ミューズのマシュー・ベラミーがこのアルバムの中で語るドローンとは、必ずしも機械のことを指してはいない。

 『Drones』は、一人の主人公による視点で物語が綴られ、彼の体験と心情が時系列に沿って各楽曲に込められてゆくという、コンセプト・アルバムだ。途中、2つのインタールードを挟みながらも、一曲一曲が必殺のロック・ナンバーに仕立て上げられている点はさすがミューズといったところだが、物語は愛を見失った主人公の心の空隙に、するりと忍び込んで操ろうとする影との出会いから始まる。鬼教官に檄を飛ばされて教育され、洗脳され、いずれ抵抗感を抱いて主人公は自由を目指すのである。これが、6曲目の「The Handler」、つまりアルバムの折り返し地点までのストーリーだ。

 ジョン・F・ケネディによる1961年の演説を遠く聞きながら、主人公は勝ち取った自由を謳歌する。ところが、物語はこのまま順調にハッピー・エンドを迎えたりはしない。主人公を操ろうとする他者の手よりもずっと恐ろしくおぞましい、闇の正体が浮かび上がって来る。その先は、ぜひご自身で確かめて頂きたい。終盤に配置された大作「The Globalist」と、厳かな鎮魂歌のように響く最終トラック「Drones」の言葉を失うような衝撃は、しかしすべての人のすぐそばに潜んでいるものだ。

 それにしてもミューズは、なぜここに来てまさに王道ロック、というサウンドで『Drones』の物語を紡いだのだろうか。セルフ・プロデュースで大胆なエレクトロニック・サウンドも配した前作『The 2nd Law』から一転、本作ではロバート・ジョン・ランジ(70年代からAC/DCやデフ・レパードらのロック名盤を手掛けてきた巨匠)を共同プロデューサーに迎えている。機械のように正確に忍び寄って支配しようとする闇との格闘を描くために、この生々しいロック・サウンドは、必要不可欠だったのかもしれない。

(Text:小池宏和)

◎リリース情報
『ドローンズ』
2015/06/10 RELEASE
通常盤:
WPCR-16486 2,457円(tax out.)
DVD付スペシャル・エディション:
WPZR-30647/8 2,980円(tax out.)
iTunes:https://itunes.apple.com/jp/album/drones/id973555620