EP Review: フロー・ライダー “クールサウンド”と“ライダー節”が見事にミックスした渾身のEP盤
EP Review: フロー・ライダー “クールサウンド”と“ライダー節”が見事にミックスした渾身のEP盤

 衝撃的だった。“ロウ、ロウ、ロウ…”と繰り返すフック、フロー・ライダーのデビュー曲「今夜はロウ☆ロウ☆ロウ」の、あのインパクト。そしてリリース翌年、この曲がまさか年間No.1をマークしてしまうとは…。

 その「今夜はロウ☆ロウ☆ロウ」含む、デビュー盤『メール・オン・サンデー』の成功でフェイドアウトすることなく、2ndアルバム『俺のルーツ』から、ケシャとデュエットした「ライト・ラウンド」が特大ブレイク、「シュガー」も続けてTOP10入りと、誰もが予想していた(?)“一発ヤ”とは言えない、言わせない風格を漂わせた。

 フロー・ライダーの成功は、ラップ界が必然的に衰退するであろう、EDMフィーバーの全盛期に登場したこと。そのブームを逆手にとって、ブラック・ミュージックをデジタリーに強調したことが、ポップシーンにもアプローチできたのではないか、と。

 その戦略がピークに達したのが、2012年リリースの『俺たちワイルド・ワンズ』。アルバムからは、「今夜も☆グッド・フィーリング」、「俺たちワイルド・ワンズ」、「情熱のホイッスル」、「想い出のアイ・クライ」すべてがTOP10入りする大成功をおさめ、もはやデビュー当時のお祭り騒ぎも“今こそが俺のピーク”と、覆した。

 マックルモア&ライアン・ルイスの「スリフト・ショップ」が、トップに君臨し続けた2013年頃から、ミュージックシーンにおけるエレクトロ色も薄れはじめ、70年代モノや90'sリメイクが流行しはじめた、今日。流行が移行しはじめたこのタイミングで、フロー・ライダーはどういった戦略をもって、新作を引っ提げてくるのか。

 その、結論を出したともいえる新作が、EP盤としてリリースされた本作『マイ・ハウス』。マックル~の影響下にあるような、ホーンセクションが黒人らしさを強調した先行シングル「G.D.F.R.」に、新境地を開拓したブランニュー・ライダーを垣間見た。

 これは何か、新しいことをヤらかしているぞ…と、フタを開けてみれば、「ブラード・ラインズ」を引用したかのような、ファレル流ファンク「アイ・ドント・ライク・イット、アイ・ラヴ・イット」があったり(しかもゲストには当人ロビン・シックが!)、ピアノベースのシンプルな仕上がりが、メロウ感を引き立てるタイトル曲、サンプリング使いがカニエっぽさを醸し出す「ワンス・イン・ア・ライフタイム」など、“激アゲMC”なんて肩書きを一層する、バウンスの効いたヒップ・ホップ・チューンが並ぶ。

 おそらく、どんな時代にも対応できる柔軟さをもち合わせた人なんだな、と思う。だけに、本作にも「ウォブル」やピットブル風味のお祭りチューン「ザッツ・ホワット・アイ・ライク」、「ヒア・イット・イズ」といった、これまでの“ライダー節”が炸裂したナンバーもちりばめているので、その路線を期待している人にも、十分に楽しんでいただける作風に仕上がっているはず。

 まもなく、デビュー10周年をむかえるフロー・ライダー。時の経つ早さと、途切れることのないヒット・チューンの数々には驚かされるが、本作を聴くことで、その成功が時代の産物でなかったことを物語る。

 日本盤のみ、大ヒットシングル「G.D.F.R」のリミックスを3曲収録。


Text: 本家 一成

◎リリース情報
『マイ・ハウス[ジャパン・エディション]』
フロー・ライダー
2015/6/24 RELEASE
1,922円(tax incl.)