ジェニファー・ハドソン 3作目『JHUD』で示す過去と未来を繋ぐ最新型“ディスコの女王”
ジェニファー・ハドソン 3作目『JHUD』で示す過去と未来を繋ぐ最新型“ディスコの女王”

 すでに日本盤もリリースされているが、ジェニファー・ハドソンの通算3作目となるアルバム『JHUD』が素晴らしい。素晴らしいと言うか、もうざっくりとサイコーである。前作『I Remember Me』は、家族が殺害されるというとてつもない悲しみをテーマに、ジェニファーの強い生き様を映し出した作品だった。そこから一転、ジャケット・アートワークからしてぐっとアダルトになった本作では、あの映画『ドリームガールズ』で人々の度肝を抜いて以来の彼女の歌唱力が、これまでとはまったく異なる方法で伝えられる。

 本作は極めてコンセプチュアルな作風で、とは言っても堅苦しい内容ではなくキャッチーな方向性に振り切れた“コンセプチュアル”なのだが、テーマはズバリ70年代ポップであり、もっと大雑把に言えばディスコである。ドナ・サマー亡き後に“ディスコの女王”の名を継ぐのはアタシよ、と言わんばかりに張り切るジェニファーが目に浮かぶようだ。プロデューサーとして第一の鍵を握っているのはシングル「I Can’t Describe (The Way I Feel) 」も手掛けたファレルで、ここではイヴリン・キングによる1982年のダンス・ヒット「Love Come Down」などをサンプリングしている。このスムースなディスコ・チューンでラップを決めてくれるT.I.もナイスだ。

 またファレルは、イギー・アゼリアを招いた「He Ain’t Goin’ Nowhere」も手掛けているが、こちらは例えばインナー・ライフ辺りを連想させるレトロ・フューチャー感覚のプラスティック・ファンク。ジェニファーによるノリノリの熱唱に驚かされて後半はR・ケリーとのデッドヒートに燃えるシングル曲「It’s Your World」は70年代というより80年代のアシッド・ジャズ風アレンジになっており、一方でティンバランドが参加しプロデュースにも携わった「Walk It Out」は上質にしてオシャレなジャングル・チューンとなっているなど、決して懐古趣味なわけではなく、ダンス・ミュージックの作法を通じて高品質なポップを世に問い直す意図があるように思える。

 若手アーティストに繋げるバトンとしては、ロンドン発のゴーゴン・シティ(今年アルバム・デビューを果たしたデュオで、アルバムにはジェニファーも参加している)が携わったエモーショナルな曲調の「I Still Love You」が挙げられる。また、終盤に美しい作曲が光る「Bring Back the Music」やブギーな「Say It」は他の楽曲群とは随分毛色が違っているけれども、ここで作曲に携わっているマリ・ミュージックもまた、今年アルバム・デビューを果たした新進気鋭の才能だ。

 どこまでも親しみ易い作風の中に広がる、高度な技術と重層的なポップ・ミュージックの歴史。ジェニファー・ハドソンが、その類い稀な歌唱力を発揮しつつ、過去と未来を、そして才能あふれるアーティストたちとリスナーを繋いでくれるような1枚だ。ポップ・ミュージックの世界は奥深いけれども、その門戸はいつだって大きく開かれていなければならない。今作のジェニファーはそんなことに気付かせてくれる。

Text:小池宏和

◎リリース情報
ジェニファー・ハドソン
『JHUD / ジェイ・ハド』
2014/10/08 RELEASE
SICP-4160  2,592円(tax in.)