2010年代のビート・シーンを牽引する眼鏡男子クリエイターによる美しきサウンド・プロダクション
2010年代のビート・シーンを牽引する眼鏡男子クリエイターによる美しきサウンド・プロダクション

 LAビート・シーンに身を置く眼鏡男子クリエイター、バスことウィル・ウィーゼンフェルト。現地で急進的なヒップ・ホップ/インディー・ポップを紹介しているレーベル<Anticon>からのリリースを続けている人物だが、昨年のアルバム『Obsidian』がかなりダークな作風で驚かされた。バスにとって初のフル・アルバム『Cerulean』(2010)は、偏執狂的なまでに美しいプロダクションのグリッチ・ホップにして夢幻ポップ作だったのだが、そこから一転、『Obsidian』は病や死をテーマに据え、重く、そして透徹とした美の境地を覗かせる作風になっていたのだ。同作を携え、12月には来日公演も行っている。

 そんなバスの新作は5曲収録のEPであり、『Obsidian』との連作でもあるということで、やはり重く、暗い。元々は緻密なヒップ・ホップ・トラックの構築と美声ヴォーカルを得意としていた彼だが、『Obsidian』には彼がチルウェイヴへとシンパシーを寄せるような楽曲も含まれており、本作『Ocean Death』はその発展型と言えるダークなテック・ハウスの表題曲「Ocean Death」で幕を開ける。今時、これほど暗いミニマル曲もなかなか見当たらないが、次第にバスらしい美しさを湛えたコーラスが立ち上がって来ると、彼の抱えた明確なヴィジョンが明らかになってくる。

 センチメンタルと呼ぶには、余りにも肚の据わった姿勢で魂の彼岸を描き出してしまう「Fade White」。こちらのナンバーも、トラック開始後1分少々というところで柔らかな4つ打ちのビートが加わる。3曲目「Voyeur」はまるでモグワイをカヴァーしているトロ・イ・モワのようなナンバーであり、続く「Orator」はバスらしい楽曲の作り込みを控え、諦観を何度も呟くようにリフレインさせる歌声に注視させるナンバー。そして、静謐な一曲でありながら最もドラマティックに展開するクライマックスの「Yawn」。何より素晴らしいのは、すべての楽曲において、闇や死の淵を覗き込みながらも、バス一流の歌とサウンド・プロダクションの美しさが咲き乱れているということだ。

 ウィル・ウィーゼンフェルトは現在25歳。どちらかといえばアンダーグラウンド寄りの活動ではあるけれども、2010年代のビート・シーンを牽引する若き才能であることは間違いない。そのイマジネーションの広がりと、多彩な楽曲スタイルにバスでしかあり得ない息遣いを吹き込んでゆく技術には目を見張るばかりだ。今回のEP『Ocean Death』に収録された5曲にも、どこかで貴方の琴線に触れる瞬間が宿されているのではないだろうか。ぜひ確かめて欲しい。

Text:小池宏和

◎リリース情報
『オーシャン・デス』
2014/07/16 RELEASE
TUGR-14 1,490円(tax out.)