『ゆきゆきて、神軍』原一男 ワン・ビン絶賛もM・ムーアら「アホ」
『ゆきゆきて、神軍』原一男 ワン・ビン絶賛もM・ムーアら「アホ」

 天皇の戦争責任に迫る過激なアナーキスト 奥崎謙三を追った『ゆきゆきて、神軍』で世界のドキュメンタリー界を震撼させた原一男。7月12日 ワン・ビン監督の映画『収容病棟』公開に合わせたトークショーに登壇した。

<ワン・ビンの画を見て、なるほど僕と似ていると思った>

 仕掛ける天才と言われる原一男は、ドキュメンタリー界の最前線にいるワン・ビン監督について「僕もワン・ビンも写真から入って、それから映画に転身した。写真の経験があると、被写体との関係の中でカメラをどう相手に向けていくか、それを具体的に考えるんですよ。ワン・ビンの画を見て、なるほど僕と似ていると思った」と発言。さらに「ワン・ビンは風貌もあか抜けなくて、まるで田舎のあんちゃんのよう。私も決して都会的でスマートなタイプではないという点でも(笑)親近感が湧いた」とも述べた。

<世の中の人はほとんどが軽いパラノイアばかり>

 さらに『収容病棟』に登場する精神病患者に話が及ぶと、「『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三さんも、天皇にパチンコ玉を打った時に、都立松沢病院で精神鑑定を2度受けて、軽いパラノイアと言われているんですが、世の中の人はほとんどが軽いパラノイアばかりでしょう。だから異常じゃないということですよ。『収容病棟』の中で、理解不能な人はいないと思うし、病院の中にいる人と塀の外にいる人に決定的な違いはないと見た方が自然だと思いますよ」と話し、「中国という国家が『収容病棟』のようとも言えるかもしれないが、権力に抑圧された空間はどこの国にもある。だから『収容病棟』は私たちが現実に生きている世界の映し絵であると言えるのではないかと思う」と、この映画の重要性を真摯に語った。

<虐殺した側が英雄視されているというおぞましさ>

 しかし、ここで大人しく終わらないのが原監督。過去に対談したことのある2人のドキュメンタリー監督をあげて「マイケル・ムーア(『ボウリング・フォー・コロンバイン』監督)なんてただの典型的なアメリカ人で、アホとちゃうかと思った。それに比べたら、『アクト・オブ・キリング』の監督は知性的だろうと思ってたんですが、対談してみたら、そのジョシュア・オッペンハイマーも典型的なアメリカ人。そういう視点から見ると、『アクト・オブ・キリング』は大ヒットして皆も傑作だ傑作だと言っているようですが、大した映画じゃないんですよ。アメリカ人であるがゆえに、あのような発想が出る。観客が圧倒されるのは、虐殺の数の多さ、現実の世界の中で虐殺した側が英雄視されているというおぞましさで、作品の凄さじゃないでしょう」と、原節が炸裂。

<彼は実に気持ちのよい男でした>

 さらに「マイケル・ムーアともオッペンハイマーとも、もう話さなくていい。でもワン・ビンとならまた話してもいいなぁ。彼は実に気持ちのよい男でした」と締めくくり、日本と中国、アジアを代表する世界的なドキュメンタリストである2人の再会が楽しみになるトークショーとなった。なお、映画『収容病棟』は、シアター・イメージフォーラム他で全国順次公開中だ。