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写真の殿堂 2016.12 選出作品

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選者より総評にかえて(小林紀晴)

 今月の殿堂入りには村松克則さんの「猿のいる海辺」を選ばせていただきまいた。透明感のある一枚です。何気ない旅先での一コマですが、独特の世界観を生み出しています。風景写真とも家族写真ともスナップともいえるのではないでしょうか。どれにでも当てはまる強さと懐の深さがあります。タイトルも見事です。そうと言われなければ気がつきにくい存在をあえてタイトルにすることで、見る者の想像力をかきたてます。なにより日常にクサビを打ち込むような、その存在が物語を生みました。世界は分断している。それでも屋根の上と下は確かにつながっていて、猿も人も同じく海を見ている。一度も語られたことのない物語が静かに横たわっています。



1位(殿堂入り)

作者:村松克則さん/タイトル:猿のいる海辺

作者:村松克則さん

タイトル:猿のいる海辺


伊豆半島の波勝崎苑という場所だそうです。野猿が生息しているとのこと。屋根の下の人間たちに最初に目が行きますが、主題はその上の猿です。抑制された画面構成と、たたずまいが「つげ義春」的世界で心惹かれます。タイトルもいいです。

2位(佳作)

作者:北野信男さん/タイトル:やがて秋

作者:北野信男さん

タイトル:やがて秋


夏と秋の境目の見極めは難しいところです。それでも、空の抜け具合が大きく違うのかもしれません。そんなことを、この写真を拝見してまず感じました。どの写真も縦位置で青空が印象的です。既成の秋のイメージと距離があり、新鮮でした。

作者:池田孝保さん/タイトル:上唇とあご

作者:池田孝保さん

タイトル:上唇とあご


コメントには「孫娘がお母さんに遊んでもらっているときに、さかさかになった時の瞬間」とありました。人間の身体にはこんな形も潜んでいたのですね。ぐっと近づいたことにより、余計な情報が消え去り、ほんわか丸みが強調されました。

3位(入賞)

作者:村上泉さん/タイトル:AYANA

作者:村上泉さん

タイトル:AYANA


背後の牡丹らしき花がとても効いています。顔の半分が髪の毛で隠れているため、どこか不穏なのです。穏やかなるものとのそうでないものがぶつかり合っています。かなり処理されていますが、もう少し自然でもよかったと思います。

作者:晃隼さん/タイトル:Elder

作者:晃隼さん

タイトル:Elder


ふと、人が立っているかのような錯覚を当初、覚えました。老人が日向ぼっこをしているような印象を抱いたからです。でもよくよく見てみれば、ヤギでした。そのわからなさのさじ加減が見事です。光をよく見ている証です。

作者:madowaQさん/タイトル:generating station

作者:madowaQさん

タイトル:generating station


おそらく浴槽でしょう。セルフポートレイトでしょうか。水に電球が浮いています。本来そこにないもの、あってはいけないものがあると、ハッとします。切ない気持ちになります。水と電気は危険な関係だから、余計にそう感じるのでしょうか。

作者:浜口正雄さん/タイトル:磯着を脱ぐ海女

作者:浜口正雄さん

タイトル:磯着を脱ぐ海女


タイトルから海女さんだとわかりましたが、写真はそのイメージとはとても遠いものでした。身体の動きがわからないからこそ、ミステリアスでもあります。人間の営み、存在、生。そのたくましさを不思議と感じます。

作者:pon-chanさん/タイトル:遠雷

作者:pon-chanさん

タイトル:遠雷


かなりの広角レンズでとらえています。タイトルの通り、海の向こうで雷が鳴り始めているのかもしれません。手前左には女性の姿。海の方向を向いています。違和感が心地いいです。旅情、旅先にて。そんな言葉が自然と浮かんできます。

作者:小向 朋恵さん/タイトル:神よ

作者:小向 朋恵さん

タイトル:神よ


タイトルから、道の十字路を十字架にたとえているのだと察しました。ただの散歩がそうではなくなった瞬間です。人が見えない未来へ向けて、不安を抱えながら歩いている。そんな姿に見えきます。風景はときに人の心の内を映し出します。

作者:佐土原光司さん/タイトル:少女時代

作者:佐土原光司さん

タイトル:少女時代


日常と非日常との関係。おそらく、これはセッテングして撮られているのでしょう。演出された非日常感の方が勝っています。それでも、どこかに、本当らしさが差し込んでくるのです。その交差と、混乱が新たな妄想を生み出します。

作者:写真部員さん/タイトル:世界の断片

作者:写真部員さん

タイトル:世界の断片


とても対空時間の長い一枚です。主題がありそうで、どこにもない。確かにタイトルの通りに世界は断片だけで成立していて、すべての断片は同等なのかもしれません。そんなことを改めて考えさせる一枚です。

作者:田村祐二さん/タイトル:相似形

作者:田村祐二さん

タイトル:相似形


犬と飼い主は顔が似ているなどといいますが、猫の場合も同じでしょうか。ふと、猫が娘さんの寝ている姿を必死に真似しているようにも見えてきました。すると、より微笑ましい気持ちになります。まさに猫背ですね。

作者:ぴろしさん/タイトル:待機

作者:ぴろしさん

タイトル:待機


差し込む弱々しい光のなかで、犬が目をつぶっているからでしょうか。考え込んでいるように映りました。いわゆる犬らしくない、陰鬱な印象です。でも実際のところは、おでかけバッグのなかで散歩を待っているところだそうです。真逆の印象が見事です。

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