スネカ(大船渡市三陸町吉浜)(C)Naoki Isikawa
スネカ(大船渡市三陸町吉浜)(C)Naoki Isikawa

 世界各地辺境から都市まで、あらゆる場所を旅しながら作品を撮り続けている石川直樹が、日本の来訪神儀礼をとらえた作品を発表している。写真展「まれびと―海から現れし者たち―」が、12月21日まで岩手県の大船渡市立博物館で開催中だ。

 日本の海沿いの町には、海の彼方からやってきた異形の神「来訪神」を迎える儀礼が数多く残されている。石川は、鹿児島県・薩南諸島に属するトカラ列島の悪石島で見た “ボゼ”という、目や耳が飛び出した異形の来訪神が現れる祭祀をきっかけに「来訪神儀礼」を日本各地で写し始めた。

 「折口信夫の言う“まれびと”ですね。言葉による定義づけを拒む存在で、旅人であり、異質な他者であり、そして自分自身を相対化する存在でもあります」(「アサヒカメラ」2013年4月号「異形の神々から日本を視る」山内宏泰によるインタビューから抜粋)

 海の向こうから現れる来訪神は、新しい技術や農作、また天災などが、海を介し届けられてきた日本の風土や歴史をよく表しているのではないだろうか。

 「言葉以前の叫びを発しながら、異形の存在が民家の軒先に上がっていく。村の人はそれを拒絶せず、畏れながらも受け入れ歓待する。日常と非日常が交わる特殊な光景です。でもここに、日本列島に生きた人々が異質な他者とどう向き合ってきたのか、その原型があるように思う。いまは子どもに、見知らぬ人とは話してはいけないなどど教えたりしますが、それとはまったく違う出会いの作法がここにあると思います」(同「異形の神々から日本を視る」から抜粋)

 来訪神とは何なのか。石川は、全国に散らばる祭祀儀礼を丹念に辿り、人間の内面に広がる未知の荒野へ、写真を手がかりに歩いていく。 展示作品は異人シリーズより、スネカ(大船渡市三陸町吉浜)、ナマハゲ(秋田県男鹿半島)、アマメハギ(新潟県村上市)、ボゼ(鹿児島県トカラ列島悪石島)、マユンガナシ(沖縄県石垣島)ほか約90点。

いしかわ・なおき
1977年東京都生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民族学などの領域に関心を持ち、行為の経験としての移動、旅などをテーマに作品を発表し続けている。写真集『NEW DIMENSION』『POLAR』で日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞を受賞。『CORONA』で土門拳賞受賞。主な著書に『最後の冒険家』、ヒマラヤ8000m峰に焦点をあてた写真集シリーズ『Lhotse』『Qomolangma』『Manaslu』『Makalu』を4冊連続刊行中。最新刊に写真集『国東半島』『髪』がある。

石川直樹写真展「まれびと―海から現れし者たち―」
会場:大船渡市立博物館 特別展示室・多目的ホール
開催期間:2014年10月18日(土)~12月21日(日)
開館:9時~16時30分(受付は16時まで)
休館日:月・祝(ただし11月3日は開館)
住所:岩手県大船渡市末場町字大浜221-86
TEL:0192-29-2161