原発事故をめぐって噴出した詭弁や自己弁護の論理を摘示した「東大話法」に関する本が昨年、話題を呼んだ。その表現にならえば、世の中には「女性話法」も存在する――。そう考えたくなるほど、男性は女性に口では勝てない。しかも会社ならまだしも、家庭内ではお互いの「素」が出るから、勝敗はより顕著だ。

「女の論理的能力は男をはるかにしのぐ」という哲学者でお茶の水女子大学名誉教授の土屋賢二氏は、エッセー「女の論法の研究」(『ソクラテスの口説き方』に収録)で、その正体を「女の論法は反論しにくい構造になっている」と喝破した。

「一般的に男性よりも女性のほうが、結論を導くための前提条件がとても多い。そして、巧みに反論できない前提を持ち出して論理を組み立てるのです」

 女性話法を特徴づけるこの「反論できない前提」の一つが「過去の発言」や「未来の仮定」だ。「昔あなた、こう言ったわよね」と持ち出されると、「そうだったかな……」と戸惑うしかなく、反論しづらい。

「男性のほうが近視眼的。女性は多方面に目を配っているから、すぐに自身の結論にふさわしい適切な前提を持ち出せる」

 こういった見解に対しては、「言語の発達に男女差はない」(田中冨久子・横浜市立大学名誉教授)という反論もある。そして、田中氏はこう分析する。

「女性のほうが腕力に劣る分、口げんかの技術を磨かざるを得ないのではないでしょうか」

『男は3語であやつれる』『女は3語であやつれない』の著書がある心理学者の伊東明さんも、こう語る。

「女性は『おいしい』『気持ち悪い』などの形容詞や副詞を好み、感情を表す言葉を多く発するが、男性は名詞や動詞が多く、感情をあまり言葉に出さない傾向があります。生物学的差異にもよるでしょうが、男女の育てられ方、社会的に求められる役割の差も『話法』の違いにつながっています」

AERA 2013年1月14日号